俳句 田畑益弘俳句の宇宙

俳句 新作 田畑益弘

田畑益弘 俳句新作


2月

五色豆ついでに買うて春隣

猫追ひて猫駆けてゆく春隣

節分の鬼面を外す乙女かな

淡雪やいよゝ華やぐ祇園の灯

冴かへる躓きて知るおのが歳

奥嵯峨の径ひそやかに凍ゆるむ

おほどかに海を濁して春の河

大いなる手に蛇行せる春の河

燦爛とひと日荒れける春の海

春しぐれ祇園甲部の灯り初め

淡雪のふいに逢ひたくなりにけり

篁に余寒ゐすわる嵯峨野かな

春あられ無聊のかほを搏ちにける

まつすぐに歩けぬ斑雪悦しかり

終ひ雪さびしき人の胸につく

独りなることの嬉しき朝寝かな

風船の逃ぐシンデレラ城の上

しやぼん玉割れてしやぼんの一雫

風なくば童よ走れ風車

美しくいそぎんちやくの飢ゑつづく

ひらかなのやうに雪降り紀元節

うららかに忘れてきたる腕時計

春昼のケチャップ垂らす玉子焼

やすらけき死顔のうへ囀れる

春昼の月見うどんに致しませう

奴凧比叡颪にあらがふも

凧ひねもす比良の荒るゝ日よ

夕映や星の如くにいかのぼり

消えなむとして白まさる浮氷

をさな日のなぜ思ほゆる忘れ雪

雨音も佳き樂なりし朝寝かな

薄氷や汝の微笑をいぶかしむ

レコードに針のふはりと蝶生る

びいどろの魚(いを)と目の合ふ春愁ひ

玻璃の囲ふ踏絵もう誰も踏まぬ

白魚の身に滲みたる水のいろ

白魚の透きていのちの在りどころ

抱擁の男女のあなた蜃気楼

入学試験鉛筆すべて尖がつて

その子らにはじめての峪大試験

新社員子供のごとき真顔なる

春ショールたれも女将と知らざりし

とうに亡き猫のこゑ聞く春の闇

朧夜の抜け路地いくつ先斗町

パンを焼くにほひのしたる朝寝かな

春睡の弥勒菩薩にまみえけり

淡雪や触れたくなくて触れたくて

蝌蚪の国蝌蚪よりをらぬ平和かな

道逸れてどんどん逸れて青き踏む

野遊びの犬にも笑顔ありにけり

春の虹みれんのやうに消えそぶる

耕してきのふのことを忘れけり

春宵や明朝体のうつくしき

凍ゆるみゐて恐竜は鳥になる

美食して元をただせば捨仔猫  

しづかなる牛の反芻春の昼


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