俳句 田畑益弘俳句の宇宙

田畑益弘 俳句 新作


12月

星屑のいや青まさる十二月

初雪や少しゑひたき昼下り

裸木が云へり切つてみよと云へり

雪の夜の夢に逢ひ得ぬひとと逢ふ

冬めける猫の薄目に見られをり

絵襖のつぎつぎ開きて謀反なり

冬麗の電気をとほすプラスチック

蝶凍てゝをりぬ死ぬにも力要る

虎落笛穴だらけなる人の顔

人の世に鬼の哭くなり虎落笛

愛猫のしもべとなりて冬籠

しぐれては祇園の燈し華やげる

広島は鬼哭の街よ虎落笛

幸福の木に薄ぼこり冬館

半熟の黄身うるはしき冬の朝

紅葉且つ散れるガラシャの墓訪ふも

屏風絵の虎耽耽とこちを視る

弱気を匿す黒革の手套かな

翔つしぐさして哀しけれ檻の鷲

息すればガラスのくもる冬の海

風邪に寝て空あをきこと恐ろしき

団欒を覗いてゆきぬ雪女郎

寒雷やこころを汚してはならぬ

片手袋拾ふ者なき夜の底

雨に濡れ無念に開く片手袋

冬の霧マンハッタンの鳴動す

おでん酒いくたび聞きし話かな

物干ゆ煤逃の猫鳴き戻る

煤逃の立呑酒のきゝにける

凍土にすぐに踵を返しける

凍滝の音無き音や耳の奥

凍星の気根ゆるびしものは隕つ

金星のひとつぶのほか世は凍つる

石油積む巨きタンカー十二月

清水へ七味を買ひに冬ぬくし

ひとひらの枝の枯葉や悩ましく

おのづから散りゆく木の葉うらやまし

狩の天谺のたびに青まさる

たゞならぬ男が曳けり夜鷹蕎麦

湯豆腐や人には云へぬ間柄

寒風を歩みて何か見失ふ

らふそくの火のやはらかきイブの闇

ゆきずりの嬰の泣きやむ聖樹かな

年忘れ常なる加茂の流れ見て

おなじ見世おなじ止まり木年忘れ

枯木中一つの枯木画きゐたり

鉛筆で画くによろしき枯木かな

年の夜の観念したる静寂(しじま)かな


BACK  俳句 田畑益弘俳句の宇宙HOME