俳句 田畑益弘俳句の宇宙

田畑益弘 俳句 新作


11月

歳時記の表紙剥げさう冬隣

あす世界が終るとしてもボジョレーヌーボー

まつ黒な鯉のたゆたふ十三夜

まなうらも黄葉づるいてふ並木かな

かくまでもけふをもみづる葬り路

菊の香やなきがら耳を澄ますやう

末枯の真中を水はいそぎけり

大枯野見てきて昏々と睡る

あえかなるものを食うべて惜む秋

黄落の中の滔々たる流れ

猪はまつすぐ走り撃たれけり

御香奠と書けばしぐれてきたりけり

さる人に聖書読ませて枯るゝ園

光陰にしがらみのなき枯野かな

亡きひとは無きひとなれど返り花

漢らの濡れてはたらく夕しぐれ

八ツ橋を焼くかをりせり初時雨

三条に大橋小橋しぐれけり

ひとひらの十一月の喪の葉書

あな白き十一月の昼の月

うごくもの郵便車のみ冬景色

枯野行く枯野の石を手ぐさにし

一片の海見えてゐる枯野かな

寒き日を獅子 虎 豹を見て和む

湯豆腐に列のできたる南禅寺

冬の蠅じつと正しく死を待てり

冬川のなほ一脈に執しをり

しろがねの一縷となりて冬の川

落陽を一鳥よぎる枯野かな

風花や水面に揺るゝ金閣寺

風花の天めくるめく荼毘の径

濁酒(どぶろく)にみちのくの星酔うてをり

日向ぼこして日に酔うてしまひけり

凩の蒼き星屑掃きのこす

恍惚と蟷螂の枯る藁の上

哭いてゐる方が勝ちたるラガーにて

人形のやうな女(め)の子のスケーター

兎狩るむかし合戦ありし山

すれちがふ眼窩の奥の猟夫の眼

冬の虫おもひだしては鳴きにけり

ありなしの日をあつめをり忘れ花

外套の影つれて夜の街に消ゆ

忠興とガラシャの眠る冬紅葉

鮟鱇を喰らふ極道三人して

客人(まらうと)の枯蟷螂と遊びけり

湯葉買ひに錦市場や冬麗

オルゴールふつりと果てぬ冬銀河

零歳で冬の銀河に加はりき

寒昴走れば気根鍛へらる

学校の大広間ちふ寒さかな

風花の泪のごとく頬に溶く

冬薔薇の近寄り難く咲きにけり

狂ひ花なれど確かな梨の白

底冷や上七軒の細格子

祇王寺の手水に沈む散紅葉

絵地図では直ぐそこのはず紅葉寺

お抹茶のほろりと甘く山眠る

裸木の艶に月影まとひをり

未踏なる雪嶺を眼にしまひおく

七曜の巡る早さや木の葉舞ふ

寒空や転がつてゆく捨タバコ

雪霏々と哭きたらぬ天止め処なき

ウオツカを一口ふゝみ寝酒とす

尖塔の垂直に刺す冬青天

京菓子の食ぶるに惜しき小春かな

出そびれてゐて冬の日が早や黄ばむ

酢茎買ふほかに用なき外出なる

見えぬもの鷹には見えて翔ちゆけり

落葉焚くほのほの中の月日かな

鯨尺使はず捨てず一葉忌

全景を断崖(きりぎし)にして鷹舞へり

てつちりやグリコのネオンまなかひに

寒の鵙武蔵の殺気帯びにけり

寒林やこゑ美しく禽の棲む

寄せ鍋の湯気おもかげも彷彿と

一合の酒を大事に凝り鮒

一人去に俄かにさぶしおでん酒

びは色の屋台の灯し雪催

さびしくて陸(くが)を見に来る鯨かな


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