俳句 田畑益弘俳句の宇宙

田畑益弘 俳句 新作


3月

脳天の一点晴るゝ雲雀かな

逃水をメリケン波止場まで追ふも

背中まろめて漫画読む春の風邪

仲春の不意に気怠きぼんのくぼ

王のごと下僕のごとく蜂を飼ふ

春の水屍の唇(くち)のなほ紅し

瞑れば永眠に似る百千鳥

國生みの如く遊ぶ子春の泥

たましひを思(も)ひたんぽぽの絮を見る

たましひの旅のはじまる柳絮かな

日もすがらさゝめきやまぬ春の山

一燈の明滅やまぬ春の海

一燈の夜更けて潤む春の海

うすらひを女人は踏まず直指庵

来し方や振り向くほどにかげろへる

戦後六十年高層街衢かげろへり

遠き灯が真珠のごとし春の海

春雷や戸棚の奥の蝮酒

ケント紙でつくる飛行機東風吹けよ

若鮎を食べてこころにしまひけり

軒下の猫の喧嘩や春の雨

春しぐれ花見小路の灯り初む

二年坂もとほりをれば春時雨

カナリヤは歌を忘れず春夕焼

病人に泪のごとく風光る

石置いて小鳥の墓や春の土

ひきしほに汐木をかへす春日かな

雛流してふ美しき日も暮れぬ

春の波遅れて音のとゞきけり

啓蟄やつむりを濡らす一雫

春一の鬼の哄笑聞こえけり

啓蟄といふこと水の中にさへ

料峭や紙の葬花の紙の音

春寒の虚空はるかに飛び去るもの

アネモネのアネモネ咲きや昼の酒

恋猫の鈴の高鳴る真くらがり

春場所のざんぎり頭出世せよ

清水に坂いくつある日永かな

長坂や春の夕日を愛でながら

風を愛で風に愛でられスヰートピー

春陰や水に浸かりし鼠捕

あたゝかや今朝の卵に黄身二つ

逆しまに流れぬ時間葱坊主

眸を開けて眠る人形春愁

夕蛙そろそろ手酌始むべし

三十六峰みな名をもちて霞けり

初花や蛇口一滴一滴音

一切を水の見てゐし櫻かな

フロッピーディスクにしまふ櫻かな

白般若潜みて夜の櫻かな

能面のゑみて淡墨櫻かな

夜櫻や滾り切つたる湯の静寂

長堤の果ては天なる櫻かな

としよりの眼のすぐ潤む櫻かな

秒針の音ひとり聴く花の昼

滝つ瀬の果は天竺花筏

花筏いづれたれもが行く界へ

花の雨透明の傘すぐ捨つる

北上の雲は天才山笑ふ

くちもとのほころぶ弥勒春の闇

りんくうインターチェインジ蝶迷ふ

春愁のおよびに揺るぐやじろべゑ

義経はジンギスカンに黄砂降る

八ツ橋を焼いてゐる香や春の雨

春寒や橋の袂のひよこ売

春寒や遅々と舟ゆく嵐山

遺されし合せ鏡や鳥雲に

囀や遺る鏡のうすぼこり

金色(こんじき)の千手沸き立つ朧かな

春宵やほつほつ灯る町家筋

春宵や花見小路の灯のほのと

都をどりつなぎ団子の提灯や

予約せな都をどりの佳き席を

佇めば胸より冷えて花の中

蝌蚪に手が出て知り初むる天地かな

蝌蚪の手が初めて宙を掻きわくる

朧へと長橋かゝる京かな

鴨川のゆたかに朧流れをり

噛みしむる鯛の眼玉や花の宴

韋駄天の風吹き出だす櫻かな

薄汚れ花見疲れの眼鏡かな

春の夜のソファーに総身沈めたる

花種蒔くや鳥獣はもう飼はじ


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