俳句 田畑益弘俳句の宇宙

田畑益弘 俳句 新作


2月

淡雪やはんなりといふ京言葉

わが指を激しく咬みて恋の猫

春草や白亜紀ジュラ紀三畳紀

一の丘二の丘恋の猫やあーい

節分の豆を厭ひて闇うごく

やらはれし鬼のまぎるゝ人の渦

がうがうと篁鳴らし春立ちぬ

春雪霏々と鬼はまだそこにをる

お持たせの春の三時の五色豆

山覚めて全天凄き雫かな

醒めてなほ水脈(みお)の如きが春の夢

蜂の巣の穴増えてゐる暗さかな

巣の蜂の一心不乱おそろしき

春燈下明朝体のうつくしき

唇をゆるしたるひと朧月

人間は神のいたづら蝌蚪ひかる

野遊びのたびに大人になる子かな

おほいなる手に春大河蛇行せる

立春のなかなか立たぬ卵かな

春の艸紙飛行機の不時着す

この辺も京都市らしき蝌蚪の紐

鬢髪のにほひのしたる春の夢

水温み転がつてをるバケツかな

春の野の起伏たのしむ足裏(あうら)かな

ひととこの早や青みたる末黒かな

山笑ふ比叡は未だ笑はざる

何ほどのことぞ人生春疾風

釘抜けば春の失意を思ひ出づ

嘘つかぬ蝌蚪に前肢生えてをり

通ひ路は町家の屋根や猫の恋

日本は御飯の國や花菜漬

しばらくは泣かせておきぬ春の芝

化野の石に出でたる蜥蜴かな

蛇出でてやさしき婆の死を知りぬ

うつくしく磯巾着の飢ゑにけり

初蝶の渡り切つたる赤信号

一服の向精神薬真夜の蝶

やはらかく幼きおよび蝶殺む

この路の風が好きなり糸柳

けふもまた葬に出くはす春疾風

春風やけふより手話を習ひ初む

春虹を見たる仕合せ献血す

迷路また悦しき春の眠りかな

継ぐ者はをらずと云へり耕せり

水筒に小さな磁石鳥帰る

春寒料峭早や七回忌とぞ

あをあをと冴返りたる虚空かな

春昼の惚(ほほ)けし眼しかと見よ


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