俳句 田畑益弘俳句の宇宙

田畑益弘 俳句 新作


12月

重ね着や父の形見の一枚も

石蹴れば石に当りし枯野かな

つゝがなく枯れおほせたる大樹かな

見えてゐる海が遠しよ大枯野

捨猫のこゑ裏がへる寒気かな

出棺の刻待ちをれば冬の蝶

熱燗や母の繰り言ふと恋し

まろやかに月日の過ぎて枯木山

花魁の墓ある寺の冬紅葉

うつし世に隠れ処あらず冬の月

声出して聖書読むひと冬の園

文豪の墓に供華なく今朝の霜

尊厳死安楽死木の葉降つてをり

死後の界たれも知らざり日向ぼこ

手袋をはづして葬の門くゞる

冬の虹知らず見ざりし口惜しき

喪中一葉来しよりの十二月

忘年会ぬけ止まり木に一人かな

年忘れ星を仰ぎて帰りけり

夕焼に染まる大河や日記買ふ

落葉して濁世の径のやはらかく

臨終のほとりに寝まる冬の猫

縄とびの縄に打たるゝ落暉かな

一人つ子一人で遊ぶ青写真

釈迦如来像御前にて大くさめ

十二月八日未明の放屁かな

鷹は吾に見えざるものを見てゐるらむ

天井をつぶさに見たり風邪に寝て

死ぬ人の髭伸びてをり室の花

鮟鱇を裂き掴み出す地獄かな

あすあるがゆゑ冬濤を身に溜むる

冬ざれや飛ばざる鶏は空を見ず

蟷螂もうつし世を生き枯るゝかな

樹氷咲き鳥獣の死所たれも知らず

外套の深きに秘むる一病か

埋火のまま消えゆくに似たること

もろもろのもの滞る冬の川

一といふ淋しき数字冬の蝶

帰り咲くはんなりといふ京言葉

人情のほそぼそ残りおでん酒

はみ出して耳は冷たき岬なり

風邪の熱見えざるもののせめぎ合ふ

学校の闇に石炭耀けり

蛹(さなぎ)のごと白き毛布に昏睡す

この辺の猫の縄張り冬日向

粕汁や玻璃を拭へば荒野見え

底冷や鬼のさまなる比叡の山

誰か咳(しわぶ)きて地下道響(とよも)せり

蝶凍てて忽ち垂るる夜のとばり

この路のみるみる銀杏落葉かな

着ぶくれて痒きところに届かぬ手

おでん酒帰りたくなき日もありぬ

おでん酒けふもきのふとなり果てぬ

おでん酒のつぺらばうのビルの間(あい)

さかしらに一瞥くれし狐かな

来世まで冬眠すとふ遺言かな

寺町へ線香買ひに年の内

大阪に太き雨降り冬ぬくし

まだ三時もう三時なる年の暮

見てもゐぬテレビつきをる炬燵かな

一病を秘むる身なれど息白き

真向に冬至の入日見了んぬ

いづこへと行く靴音や夜半の冬

こけし人形いつも目を伏し冬永き

おのれ揉むおのれの肩や年の暮

一服の紫煙のゆくへ年惜む

あをあをと水の底にも冬及ぶ

地球儀の極地の塵も師走かな

年つまる床屋に顎(あぎと)剃られゐて

ひとと逢ふ門松立ちし高島屋

寒きかな厠の真紅なる造花

冬ざれの寺の奥なる観世音

落葉降る夜の白湯に割るウヰスキー

月光の剥落やまぬ木の葉かな

大年の爪を切ること残りをり

耳の穴しつかと掘るも年用意

煤逃の立呑みの酒きゝにけり

はらわたに波濤響かふ大晦日

大年の使ひし水を水に捨つ


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