俳句 田畑益弘俳句の宇宙

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10月

昼の虫石に聞き耳ある如し

よべ逢ひて別るゝあした草ひばり

かはたれを雨白く降る草ひばり

天の川抜けし一歯を屋根に捨つ

衣被やはき闇なす東山

秋晴や何もせぬこと罪に似て

奥嵯峨の竹伐る音を巡りけり

たまさかに京の松茸づくしかな

菊活けていまさら母の死を怒る

鳳仙花一所懸命爆ぜにけり

昼酒や焼松茸にためらはず

野の秋やとりけものわれとりけもの

柿干して御歳百となりたまふ

初鴨や洛北の水青まさる

こほろぎも乗せてトロッコ列車かな

死顔の寝顔にまがふ菊の花

栗剥くと唄ひし母も遥かなる

花野風ここは鈍行のみとまる

菊月や一番好きな上着きて

土踏みてたましひ寧き良夜かな

秋の蝶ひとつ路傍に供華あまた

蝗焼いてつぶやくに似る婆の唄

跳ねて跳ねて蝗この字(あざ)より知らず

螻蛄鳴くや充たさるゝことなき胸に

添木せし老松にして色変へず

頭(ず)の中の一点の醒む鉦叩

瞑ればわが頭の中も虫の闇

初百舌鳥に紺碧の空ありにけり

なんとなくイエスをおもふ案山子かな

帰してより聞くきぬぎぬの草ひばり

千万の侏儒の踊る虫の夜

冷やかにはたと数式解けにけり

桐一葉街川をゆき街を去る

くちなはの乾(から)びて哄ふ鵙の贄

かにかくに白川は美(は)し柳散る

芋嵐うらはらなこと云ひて去る

鉦叩やみても時のとまらざる

秋風や供華ある仏なき仏

銀河より漁火一つ帰り来る

上野発芋煮会へと帰る人

青天下老いて汚れし鹿に遭ふ

石に坐し石を見てゐる秋思かな

白雲の美しすぎる秋思かな

遠き木にはた遠雲に秋思かな

好晴のつづき秋思のつづきけり

ねもごろに洗ふ筆硯菊日和

おばしまの秋思の人に近寄らず

かはらけはあらぬ方へと紅葉谷

祇王寺はあしたに残し紅葉狩

捨猫の生きて鳴きをる流れ星

のら猫のほそぼそ鳴けり十三夜

立食ひの蕎麦に舌焼く秋しぐれ

死火山にしてめくるめく紅葉かな

捨猫に餌を投げくれて露寒き

秋高しいづくかに火事あるらしも

のゝ宮に良縁祈願初紅葉

黄落や日蔭のたれもゐぬベンチ

鮭撲たる文句ありげな顎(あぎと)して

桜紅葉太夫の墓にひと気なく(常照寺)

玲瓏たる石を拾ひし秋の川

うかうかと日の昏れかゝる茸狩

時代祭あち見こち見の禿かな

時代祭西郷どんと目の合ひぬ

時代祭ぴーひよりひよーと始まれり

紅葉せり迷ひの窓の白障子(源光庵)

朱雀玄武青竜白虎ちちろむし

猫の眼の追ひかけまはす木の実独楽

けふ淋し木の実降る音聞きしより

新橋をいそぐ舞妓や柳散る

やうやうに薄紅葉とや嵐山

カンナなほ燃えて愛憎紙一重

行く秋や街を出づれば街恋し

竜胆の思ひ出さするひとのあり

一生の短さを思(も)ふ夜長かな

囮置く諍ひ一つなき里に

深秋の一人に一つ影ぼふし

芋の露笑ひ転げてをりにけり

ばつた跳んで亜細亜大陸蒼茫たり

青青と蟷螂飢ゑてゐたりけり

中川は杉かをる町鮎下る

星飛んで鞍馬は杉の真闇なす

蚯蚓鳴いて六道の辻ひとけなし

秋星を額に発止と立ちどまる

静物のやうに坐しゐて秋のひる

粧へる山ふところの荼毘の径


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