俳句 田畑益弘俳句の宇宙

田畑益弘俳句の宇宙 俳句新作


7月

青林檎割るも齧るも惜しまれて

青林檎淋しと病めば目をそらす

青葡萄一音一音律ととのふ

木下闇出でゝこの世に馴れゆく眼

緑蔭を出でゝたちまち阿修羅なる

これやこの青蓮院の樟若葉

ひとりごと云ひて独りの冷素麺

黄金虫斜陽にまみれ失せてけり

鯖鮨や錦市場をたもとほり

山国に美(は)しき川あり鮴汁あり

あぢさゐや傘相ふれて相しらず

昼寝覚シルクロードのどのあたり

七七忌早やも過ぎけり百日紅

火取虫供へし水に浮いてをり

端居してとぎれとぎれに古き唄

端居して倦まざる常の夕山河

サングラス掛けてこころの忌は明けず

独り言でんでん虫に聴かせけり

梅雨空やよく寝るゆゑに猫と謂ふ

永遠にけふの終らぬ熱帯夜

あきらめて土星見てゐる熱帯夜

病葉のごと忘られたくて大都会

柩窓小さくてさぞ暑からむ

老鶯を聴きゐてけふも閑人なり

冷房や倖せにして淋しかり

シャンデリア花氷ある別れかな

はしたなく喪の酒に酔ふ鱧の皮

尺取も一枝となりし青山河

髪切虫智恵子の空を鳴きわたる

蓮ひらくまでには帰らねばならず

新茶汲む変哲もなき日頃にて

遠島の灯一つ残る露台かな

香水の香にはじまりし破局かな

すつぽんの生血に始む暑気払ひ

ジャズと騒音のカクテル大西日

涼風のつゞきを待てる紫煙かな

下京に太き雨降る鉾祭

大降りに祇園囃子の高ぶれる

祇園会や亡き人過るいくたびも

宵山や亡き人の背のまぎれゐて

あつあつのチヂミ喰らふも暑気払ひ

韓国に爆弾酒あり暑気払ひ

明易きホテルの部屋の聖書かな

窓のある涼しき封書届きけり

夏の夜のリングサイドの坩堝かな

梅雨明や手遊びの詩すべて燃し

茶を喫す仇の如く毛虫焼きて

さゝ濁る川の臭ひも土用かな

片蔭り夢をむさぼる猫羨し

明易のまなこのテストパタンかな

ひとりむし落つ「眠られぬ夜のために」

夕景のやうやう夜景冷し酒

昼寝覚金糸のごとく狐雨

けふの蝉かの日の蝉や忌を修す

かの日のことかの人のこと虹淡し

病葉のひとつ舞ひ上げ新宿区

病葉のなほ安らがぬ夜の底

母郷去る眼にいつまでも誘蛾灯

叡山の灯を眺めゐるビールかな

ちちははと飲みし梅酒や卓の傷

焼酎や薩摩おごぢよにすゝめられ

白靴や形見なれども磨かれて

飛込みや総身青ざめ美少年

頭一つ太平洋を立ち泳ぐ

あめりかの方向いてゐる立泳ぎ

上蔟や深空は星の数殖やす

白繭の静謐の夜となりにけり

口に出せば悔になるなり蜥蜴の尾

冷やかに炎むらゆらめくサングラス


BACK  俳句 田畑益弘俳句の宇宙HOME