俳句新作 田畑益弘俳句の宇宙

田畑益弘 俳句新作


4月・5月

春愁の紫煙のゆくへ見るばかり

飛行機へ消ゆる空似の春コート

麗日へ爆弾のごと象の糞

春昼の省略したる腹ぐすり

嘘まもることも大切春の虹

うらうらとふくらみて来る電車かな

透明の傘に枝垂るゝ大櫻

朧夜の赤子の手にも手相かな

四月一日あかときの赤子の手

ふらここを横に揺らして悪童よ

御室桜いづくに立てど塔見えて

哄笑や午前零時の花吹雪

遅き日の天地を返す砂時計

けふ一日初蝶となるこころかな

魂を思ひたんぽぽの絮を見る

たましひのかくも真かろき柳絮かな

朧夜の屋根に遊ぶはたましひか

亀鳴く夜のとりかへばや物語

緑蔭に入るヘーゲルをポケットに

書を読みて人を厭ひし若葉光

日本国憲法を読む片蔭り

惜春の手をおばしまに嵐山

蟻穴を出てファーブルに見つめらる

春風のたまさかに買ふ時刻表

しやぼん玉隣より来てこどもの日

緑蔭や吉田秀和「モーツァルト」

また雲が千切れてゆきぬ啄木忌

太陽のうしろへ逃ぐる黒揚羽

若者が激突死して春の虹

春風を着こなしてゐる彼女かな

何よりもたましひかろく霞かな

瞑れば見ゆるものある一夜かな

臍の緒とともに引越す聖五月

蛍火を見たくなき夜でありにけり

葉桜や己に喝を浴びせたる

夜間飛行機涼しさの点滅す

まろび寝の枕は論語しやぼん玉

慰霊碑がまた一つ増ゆ春の日に

卯の花腐し「つまんない」「つまんない」

紙魚走りをる「或阿呆の一生」

黒猫のまなこ金色(こんじき)片蔭り

恐ろしき厠が外に避暑の宿

四畳半一間の暮し大西日

離島のごと孤島のごと夜の端居

麦秋の鏡に男はたと痩す

空梅雨の蛇を咥へて猫帰る

買ひてすぐ電車に忘れ麦藁帽

麦飯をぎやうさん炊いて寡男なる

冷し酒先立たれたる父思ほゆ

冥府見てゐしか亡父のサングラス

蛍火や吾は泣き上戸かも知れぬ

父も逝きて耳に棲みつく青葉木菟

瞳なき達磨の白目春愁

春の夢のたまひておほん歳百

春の夢起承転にてはたと醒め

かたつむり考へ考ふ考ふる

卯の花腐し昼酒に妓もゑひて

青時雨去来の墓に屈みしに

切り結ぶ真竹と真竹青嵐

夏原に犇めくいのち我がいのち


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