俳句新作 田畑益弘俳句の宇宙

田畑益弘 俳句新作


3月

春昼のあな大いなる象の糞

象の尻眺めて暮れの遅きこと

日永なる手の大きなる紙袋

バス停のダイヤ眺めてゐてのどか

わが蝌蚪は蛙になりたがらぬ蝌蚪

おほかたは昭和一桁青き踏む

農のくち半開きなる霞かな

残党の如く過りし焼野かな

一服の向精神薬真夜の蝶

花菜風少女のやうに母ゑみき

お父さんお母さん鳥雲に入る

生るゝ子はきつと美男子春の雪

朧夜の痒きところに届かぬ手

そこここに侏儒のさ走るはるぬかな

梅日和片手袋の落ちてゐし

一切を水の見てゐし桜かな

日本中放置自転車春一番

うぐひすを聴きゐて白湯のうつくしき

かにかくに祇園の川音(かわと)残る鴨

一合はゆるされてをる目刺かな

どこからが晩年か鳥雲に入る

春禽に訪はれていよゝひとりなり

媼面とれば真乙女花けぶる

般若面とれば真乙女夜の桜

としよりの眼のすぐ潤む初桜

この辺も京都市らしき蝌蚪の紐

母郷より字(あざな)も失せし初燕

あばら家へぶらりと寒が戻り来る

春愁の亡父の狂はぬロレックス

水音も水嵩(みかさ)もおぼろ高瀬川

ねもごろに返事したゝむ春の雪

たゞ一度書きし恋文雪の果

春月をかゝげて杉の生気かな

桜さくらサクラ日本に思想なし

戻りきて象をかなしむ日永かな

寝ねがてに須磨の巻など夜半の春

囀りの中絶叫のまじりをり

蝌蚪に手の生ゆる不思議な水である

日も月も地球もまろく蝌蚪の紐

うかうかと遺されてをる春の昼

水漬きたる天体にして目高かな


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