俳句新作 田畑益弘俳句の宇宙

田畑益弘 俳句新作


2月

一月の水の如くに過ぎてけり

命懸けて寡婦の咲かせる寒牡丹

なにもかも語る背中よ外套よ

東京を啄んでをる寒鴉かな

酌下手の汝を愛しむおでんかな

思へらく輪廻転生冬木の芽

風花のひとひら滲む鮮魚の眼

寒鯉の一擲したる山河かな

塩鮭の文句ありげな顎(あぎと)にて

シリウスとさす子の指(および)悴まず

駅弁の箱の木の香や春隣

クリオネのひそかに還る銀河の尾

春隣北野の鳩に好かれゐて

春を待つお地蔵さまに五色豆

がうがうと篁(たかむら)鳴るに春立てり

春雪霏々と鬼はまだそこにをる

八ツ橋を焼きゐるかほり春時雨
※「香・かおり」の旧仮名表記は正しくは「かをり」である。
しかし、平安時代中期以降「かほり」が常用されており
、芭蕉も「かほり」を使っている。
契沖も歴史的仮名遣い研究書「和字正濫鈔」において
「常にはかほるなり、常によるべし。」と書いている。

京湯葉と灯りし春の夜も更けぬ

童べの眸のおたまじやくしかな

梅が香や御籤をひけば末吉と

賀茂鶴でちびちびまゐる春の宵

北野より平野へ花を窺ひに

冴返る海のもの到く二条駅

昼蛙きのふのけふを酔うて候

初午やすずめ焼く香の裏参道
※初午は稲荷神社の祭礼。
京都、伏見稲荷大社の初午祭は有名で、市が立ち非常に賑う。
米を食い荒らす雀は五穀豊穣の神様、お稲荷さんの敵ということで、
雀の丸焼きは伏見稲荷の名物になっている。

初恋のひとも五十路や梅白き

酔ひ痴れてそろ淡雪を顔に受け

噂のみ残して消ぬる春の虹

瞑(めつむ)れば母の里あり遠蛙

てのひらのひよこのやうな春日かな

大きなる繭の中なる春の夢

春燈下明朝体のうつくしき

恋猫よ猫撫で声を忘れしか

ピッコロの音(ね)フリュートの音風光る

春愁のたとへばπのやうなもの

殺人事件聞きつつ齧る目刺かな

春蚊出で愛の褥を攪乱す

春風邪や熱湯三分ちふ永さ

初蝶や蹴躓きたる御老体

死ぬるまで治らぬ病青き踏む

春眠や文庫本にも上下巻

死顔の祖母のゑくぼや朧月

もしかして死は恍惚か大朝寝

春大河ねむれねむれと流れをり

杭いまだ直立のまま春浅し

春浅し串ししやもにて独り酌み

おもひだしては赤面し春の夢

春愁の半ばにて佇つ渡月橋

恋失くしまた恋を得て風車

おのれらも逃げ遅れしか青目刺


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