2月

春節のスープの底の猛り龍

春節や丸テーブルで合席で

豆打つや裏手の闇にねんごろに

山国の闇あらたまる追儺かな

どこやらの猫にもあたり鬼の豆

やらはれし鬼に吼えしか寺の犬

鬼の豆遠き闇へも一擲す

鬼は外福は内ふつと亡父のこと

狐より愚かなる罠仕掛けあり

一句生みたり一本の木の葉髪

をんな傘とりどりに咲き霙れけり

雪催ふ各駅停車待つ小駅

雪しまく京の鬼門の嶺なれば

侮れぬ雪となりけり洛中図

夜に入りて華やぐ小路風花す

春隣小路に響くおこぼの音(おこぼ=ぽっくり)

節分の気色ばみたる虚空かな

節分の鬼の業かや霏々と雪

ひもすがら神戸に遊び旧正月

寒明やひそと昇天したるもの

寒明やよべはなかりし庭潦(にわたずみ)

ひそかなる夜半の雨もて寒明けぬ

ダンボール箱に仔猫と牛乳と

通ひ路は屋根伝ひなり猫の恋

恋猫となれずテレビの上にをる

野を焼きていにしへの人立つ如し

まつろはぬ野火蛇の如く打たれけり

木の芽和鞍馬はけふも雪なりし

京をんな朝餉倹しや花菜漬

吾輩は猫の機嫌や白子干

独酌も悦しからずや蒸鰈

蜆汁母の繰り言よみがへり

淡雪やあの日の母のひとりごと

こころもつ如くに舞へり牡丹雪

定刻に波止に佇つひと春ショール

春しぐれ朱の欄干(おばしま)濡らし去る

はんなりと霞棚引く東山

サイパンに戦死と墓銘春の霜

春雪のあとの落日金色(こんじき)に

目醒めよと春の霰が木に吾に

曖昧なことばかり云ふ春の虹

青年の眼窩翳りぬ春浅き

確と握り締めよ春は逃げてゆく

目刺その哀しき目より焦がしたる

目刺喰へば土光敏夫のこと思ふ

蟻出でて既に一心不乱なる

流氷を一期一会の人と見る

春光溢れガラガラの観覧車

東京がつくられてゆく春の泥

日章旗いづく建国記念の日

しやぼん玉のこはれて消ゆるほどのこと

形見としてZIPPOライター拾ふ斑雪(はだれ)

旅人われ馬上にありし春の夢(旅人=たびと)

絹の道もとほりゐたる春の夢  

なるやうになればよろしき大朝寝

限りなく山をくすぐる雪解水

白梅に気合の入る日頃かな

あたゝかし胸裏に荒野抱へゐて

風光る拗ねた心に痛いほど

のどけしや鸚鵡に英語教へゐて

春昼のラヂオがヒット打つてをる

春灯下いやなことせし掌をひらく

ビジネスの街や初蝶見失ひ

春日影地下より何かのぼりくる

物の芽や蟻の足音聴き澄まし

やまびこは山奥へ去り春めきぬ

掌の上にひよこのやうな春日影

いつせいに春の風へとまはれみぎ

やいゆえよはたはひふへほ雪淡し

新入生ちから一杯あいうえお

よく笑ふ春の三時の五色豆

一枚脱ぎて春を一枚はおる

まんまるのまんまんなかの春愁

春愁のたまごが先に決まつとる

泣く笑ふ祷る囁く百千鳥

春の雲肩を揉まれてゐる如し

あをあをと晴れ極まりし余寒あり

春燈や明朝体のうつくしき

春泥のはねて女人の脛白し

春の夜や女といふは匂ふもの

白湯のんで六腑やしなふ余寒かな

寝ねがての真夜の雨気も春めきし

蜃気楼汝が手をしかと握りける

覚めてすぐ忘るゝ夢や薄氷

唇ほのとほどけ春眠覚めやらぬ

春眠に瀬あり淵あり悦しめる

春眠の水脈(みお)の如きが覚めてなほ

春眠やま白き繭に身を屈(くぐ)め

ひとり遊ぶ児しやぼん玉になに呟く

ふらここの眠りにつきし星夜かな

無為にして眼に茫々と大干潟


BACK  俳句新作 田畑益弘俳句の宇宙HOME