田畑益弘
俳句新作
2月
しら梅のあすにほころぶ気色かな
撫で牛は石のつめたさ梅白し
切結ぶ竹の音聴く風二月
豆打や闇がたぢろぐ闇の中
やらはれし鬼見失ふ人の渦
柊挿して鬼も来ず人も来ず
立春のなかなか立たぬ卵かな
がうがうと篁鳴らし春立ちぬ
流氷の天も動いてをりにけり
鞍馬路はけふも雪積む木の芽和
受験子の眼中になくすれちがふ
島原の大門くゞる捨仔猫
眼が合ひて忽ち有縁捨仔猫
仏飯を喰ふ捨仔猫喰へばよし
恋猫の鈴の高鳴る真くらがり
屋根づたひ何処へも行けて恋の猫
北野より平野へまゐる厄落し
風光るまだ傷だらけなる山河
春浅き雨のひそひそ降りにけり
春雪霏々と鬼はまだそこにをる
固まつて其処が都や蝌蚪の国
蝌蚪に手が出てもう魚にはなれぬ
リモコンがいくつもあつて春の風邪
ひそかなる逢瀬の後の春の風邪
いくさ経し不死身の人の春の風邪
初午やすゞめ焼く香の裏参道
七曜のめぐる早さの物芽かな
春はあけぼの珈琲はアメリカン
あをあをと冴返る空ありにけり
佐保姫の覚めて奏づる深山川
淡雪やはんなりといふ京言葉
鳥雲に河は苦しく蛇行せり
少年の日のローマ字日記鳥雲に
鳥雲に時差の向うの子をおもふ
春泥の径の果てなる縁切寺
春燈やをどる姿の京人形
をりからに三味の音漏るゝ春燈
春燈のともりて昏らき先斗町
繰り言が母の遺言しゞみ汁
サイパンに戦死と墓銘忘れ霜
山河けふ力抜きたる雨水かな
亡き数のひとを娶りし春の夢
春を寝て未生以前を旅してをり
龍馬遭難之地とのみ春疾風
龍馬の目切れ長にして沖霞む
抱擁のあなたに海市崩れ初む
かざぐるま恋とは風のやうなもの
風車不意にシャネルの香り来て
風船が逃げるシンデレラ城の上
水筒に小さな磁石鳥雲に
白杖は道たがへざり百千鳥
柩窓開いておきぬ百千鳥
料峭や紙の葬花の紙の音
残る鴨勇の詠みし水にかな
東風さむき白梅町といふところ
東風吹かば出船ま近き遣唐使
豚落ちて黄河の春を泳ぎけり