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12月の俳句
田畑益弘 俳句新作


新着情報 画像12月

御破算で願ひましては十二月

密やかにこひびとと逢ふ年忘れ

止まり木のいつもの席の年忘れ

三十六峰しめし合はせて眠るかな

どこやらに手套落せし日和かな

うつくしき昆虫図鑑冬ごもり

ひきしほの美しかりし湯冷かな

空箱の中に空箱十二月

ジョン・レノン思ひ出させてしぐれけり

帰り花仏の母につぶやくも

北風や貝殻なべて深手負ふ

焼鳥や資本論など聞かされて

冬の蝶供華より供華へ翔びにけり

ゆびずまふ女としたる炬燵かな

炬燵居の脳の大部を使わざる

クリスマスツリー角を曲れば裏社会

日の本の風うつくしき細雪

枇杷色に屋台はともり雪催

つぐみ焼昭和もとほくなりにしよ

死亡欄読む間をしぐれては晴れて

冬の蝿存ふるとは咎に似て

狐火のともりて昏き丹波かな

昼月のかくも清らに年の暮

賀状書き了ふ皓々と月ありぬ

顔見世や名代の蕎麦もお目当てゞ

とりわけて女将の自慢かぶらむし

悪さうな漢ばかりや缶焚火

オロシヤの舶を怖れず冬かもめ

猟銃に色気の如きもの光る

これやこの枝垂桜の枯木かな

寒雀遊ばせたまふマリアさま

鷹の眼が我が眼に見えぬものを見る

凍夜ふと街角に降る電子音

三寒の四温の兆す雨気かな

冬深し標本室の千の蝶

猿山の猿も驚くくさめかな

たゞならぬ男が曳くや夜鳴蕎麦

焼鳥やをとこの背中みな哀し

酒ばかり届くを恥づる歳暮かな

残骸もまた旨かりし鮟鱇鍋

キリストに似たる瞳と遇ふ街師走

面白うなりさうな夜や京に雪

南窓開けて茶の花日和かな

手を浸けて海ぬくかりし水仙花

水仙や怒濤いくつも見てゐたる

十二月八日未明の放屁かな

爆心の鬼哭の街の虎落笛

牡蠣食うて賀茂鶴酌みて呉にあり

鶴凍つる姿正しく歩みては

母遺す編みし毛糸の未来形

寒林にこゑ美しく禽の棲む

極月の美しき火や反故焚けば

着ぶくれの人さし指の静電気

狛犬の阿吽の分かつ霜の花

大原はけふも雪積む牡丹鍋

還暦の我がかげぼふし日向ぼこ

山眠りゐて石英は水晶に

夜雨そと初雪となる別れかな

初雪は水子のために降りにけり

団欒を覗いてをりし雪女郎

雪の京むかしのキネマ見るごとし

自動車も静かなオブジェ深雪晴

長考に沈みゆくなる襖かな

裸木の膚(はだへ)艶めくネオンかな

剥製の鷹翔つかたち冬座敷

熊出でし山にも市制布かれあり

ひたすらに點となりゆく枯野人

から風や紙の葬花の紙の音

しぐれねばならぬ如くに小督塚

短日を曲り損ねし事故ならん

音消して救急車去る寒夕焼

年の瀬をやをら過りぬ霊柩車

凍星の気根ゆるびしものは隕つ

ヴィーナスの一粒のほか世は凍つる

翔つしぐさするも哀しき檻の鷲

総落葉してたゞ眠し安息日

みちのくの伏目のこけし冬深き

寒夜行き人ゐぬ怖さゐる怖さ

しぐれては男の酒を哀しうす

モナリザのゑみも見飽きぬ古暦

年の瀬の背中押されて足が出る

生き死にを篩にかけて年歩む

一本の鉛筆で画く枯野かな

人生の誤算のごとく隙間風

しぐれては千本鳥居華やげる

猪鍋の煮え立つ比叡颪かな

白湯に割るOld Parrや枯葉の夜

白毛布蛹のやうに寝てしまふ

天皇誕生日密やかにひとと逢ふ

佳き墨を買ひて天皇誕生日

曲つても曲つても迷路雪女郎

空あをきことも恐ろし風邪籠

風邪引きて人のこゝろのよく見ゆる

風邪引いて一所懸命眠りけり

休校の砂場に遊ぶ風邪の神

ひとり碁を打つ音響く枯山河

流水のごとひとゝせの過ぎてけり

洛中の朝餉つましやすぐき漬

今にして遠火事に似る青春よ

点鬼簿にわが知らぬ名や冬の星

行く年の動く歩道を歩いてゐる

マスクしてをみなごの耳紅潮す

いづくへと行く靴音や夜半の冬

見えてゐる海のはろけき枯野かな

欠席を○で囲みて冬ざるゝ

臍の緒を出して見つめて年の暮

顔見世も千龝楽やゆりかもめ

満目の枯を見てきし深睡り

大谷崎の墓に供華なく今朝の霜

大時計の内部の暗き掃納め

大年の観念したるしゞまかな

大年の大きしゞまを星流れ

年歩む大き静寂ありにけり

一服の紫煙のゆくへ除夜の星


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