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5月の俳句
田畑益弘 俳句新作


新着情報 画像5月

真向ひに如意ヶ岳据う夏座敷

かりそめの水に金魚の一世かな

病人の目に蝸虫の迅さかな

高瀬川あくまで浅し灯涼し

いつよりを晩年と云ふ夕焼川

薫風も九十九折なす鞍馬山

短夜の逢瀬のための時刻表

うつぶせに臥てゐる女明易し

黄金週間磁石に無数なる砂鉄

マネキンの眸みづいろ夏帽子

天近うして人やさしお花畑

日照雨(そばへ)には日傘をさして先斗町

水打つて創業三百五十年

打水や一見さまは御ことわり

水打つて抜かりなかりぬ祇園町

掛香や灯りて昏き先斗町

渋滞の只中憲法記念日よ

大寺に大蟻の国ありにけり

蟻潰すとき確かなる硬さかな

紙魚走りゐる『或阿呆の一生』

永らへよ『ゲバラ日記』のきららむし

したたかに浮世草子のきららかな

フリージアけふも香りてけふも病む

京ゆばのさゝ波模様春の雨

新宿ゆやけ群れてゐて皆孤独

朝焼褪せ高層街衢起動する

日の本の子供少なきこどもの日

まつすぐに大人を見る瞳こどもの日

一雨の予感に揺るゝ夏のれん

カンバスはまだ白きまゝ夏が来る

傾ぐだけ傾ぎてヨット疾走す

夕凪げばサーファーの来るグリルかな

山積みのバナナの中の日本かな

明易やグラスの底の琥珀色

短夜や忘れてゆきし耳飾り

サングラスかけ人の眼を窺へる

死にさうな金魚ばかりが掬はるゝ

水更へて金魚に鳴らすモーツァルト

微動だにせぬも守宮の自由かな

茹で過ぎて黒ずむ卵麦の秋

少年と少女の秘密麦は穂に

麦秋の納屋に終りし少年期

滝壺の恐ろしければ又覗く

滝となり又滝となり又滝と

嶮にして泉へつゞくけもの道

夕景のやうやう夜景冷し酒

冷酒や放つておいてくるゝ見世

昼寝覚ガリレオ温度計ふわり

ででむしの落ちて始まる新世界

青松の白砂を借りて蟻地獄

蚊柱や寂一文字の墓のうへ

山蟻の何より山を悉る歩み

生れたる蜻蛉の眼に無数の宙

まひまひの舞に落日落ちかぬる

風聞の蛇がだんだん大きくなる

でで虫に捜し物ある銀河かな

蟻の死を蟻が運びて落着す

人類の滅びし星のゴキカブリ

分け入つて蚋に喰はるゝ山頭火

籐椅子の凹みも父の形見にて

母の日に逢ふも母なきふたりにて

母の日の母に座つてゐてもらふ

母の日やのこりしものに鯨尺

過去よりも未来をおもへ五月来ぬ

網戸よりわたしの不在わが覗く

木の根道山の蟻にはかなはざる

老鶯や息継ぎ水のこんこんと

奥の宮へと大いなり夏木立

いつ来ても誰かたたずむ未草

たかむなの既に長髄彦の丈

竹夫人ときどき愚痴も聴いてゐる

蝿とんで清少納言筆止むる

かげろふの中へ去にゆく賀茂祭

懸葵機嫌ななめの牛の啼く

飾られて葵祭の馬となる

近づいて見て水中花屈折す

千人の千のまなざし花氷

華燭といふ一つの別れ花氷

ひとつぶのをとこの涙サングラス

情死とふ古き死に方誘蛾灯

今はすぐ今でなくなり蚊遣香

亡きひとの好みし香り京扇

道をしへ京の終なるみささぎに

涼しさや星に生死のあることも

三条も四条も見えて川床涼し

薄味は京のならひや夏霞

化粧ふれば舞妓は暑さ忘じけり

メロン切る女将のけふの機嫌かな

サングラス未だに坊と呼ばれゐる

人間の罪ぎつしりと冷蔵庫

たこ焼のソースの香り夏の月

頓堀に男前なる夏の月

夏月やふわりと豆腐沈みたる

青嵐やさすが源氏の男山

白妙の小流れに遇ふ木下闇

ハーモニカつたなく鳴りて緑の夜

蕗を煮て町家の奥の暗きかな

梅雨兆す幸福の木のうすぼこり

朝の虹愛は執するものならず

美しき距離ハンカチのなほ振られ

臨終ののち風鈴の鳴つてをり

死ぬ人に風を送りし団扇かな

雨降れば雨を愉しむ籠枕

掻い抱けば仄と螢のにほひせり

螢火の今宵をとことをんなかな

明易のまなこにテストパタンかな

冷し中華一人食ふ午前二時の街

誘蛾灯ふるさとの灯の一つなり

光年の星につぶやく端居かな

夕端居昭和もとほくなりにしよ

美しき独断薔薇は崩れけり

御来光待つ二杯目の濃き珈琲

刺青の裸身に楚々と臍がある

爆心や裸の夏の月かかぐ

東京のネオンを游ぐくらげかな

ひよこ売るをとこを憎む夜店かな

夜店見てきれいな飴を買ひしのみ

たからかに竹切結ぶ青嵐

熱帯魚ひかりの中に飼はれけり

鵜籠へとみづから入りて鵜の帰る

無辜の民無辜のくちなは殺めけり

わたくしは記憶に過ぎず浮いて来い

ブロンドの枝毛をひろふ白夜かな

泡盛にたくましきかな島野菜

遍く主はいます胡瓜曲がり初む

これがまあ京の暑さや阿国像

通り抜けできますと路地涼しけれ

すずしさや死ねば原子になる話

はつなつの星空浴に君の星

捕らへては放つ螢や思ひ川

とこしへに和泉式部の恋螢

蟻の列黒人霊歌聞こえくる

しんがりの蟻がんばれよほどほどに

三畳紀ジュラ紀白亜紀蟻のぼる

書くこともなしと書く日記夜の蟻

見てをればつゆたゝかはぬ闘魚かな

岬にも四五戸住みなす夏燕

殺めにし蛇生き返る白昼夢

自転車で行けるだけ行き蛇捨つる

蛇這ひて毫も汚れぬ身をもてり

蛇に遭ひ遂に神とは邂はざりき

落柿舎の柿より茂り始まりぬ


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