田畑益弘俳句の宇宙 ロゴ

3月の俳句
田畑益弘 俳句新作


新着情報 画像3月

遅れ来て「かんにんどすえ」春袷

三月の空を去る人来るひと

春空の宙ぶらりんの男かな

ジャムを煮て学生妻の春休み

春休み小鳥のやうに早起きし

灯を消せば面さびしき雛かな

京雛や過ぎ去りし世のうつくしく

真夜中の昏みに醒むる雛かな

春コート風を集むる大空港

春陰や眼疾(めやみ)地蔵を拝むひと

火葬場に飯食ふ処鳥ぐもり

この星にふわりと坐る朧かな

蜃気楼青き時間を汝と呼吸す

春蚊鳴く観音さまの長き耳

テニスコートの君が初蝶になる

蝶博士蝶を愛して娶らざる

把瑠都にも乳首が双つうららけし

とことはの父母の留守春落葉

朧なる京に図子とふ小道かな

朧なるろおぢと云ふも京言葉

水筒に小さな磁石鳥雲に

三月や女あかるくつれなくて

石庭をまへの微睡みうららなり

春昼や京のお菓子の美しき

春宵やだらりの帯とすれちがふ

国宝の弥勒のゑみも春の宵

春の夜や吾は日本酒汝はワイン

春の夜を更かす源氏のものがたり

啓蟄のとたんに嘴の先にかな

あたたかや百獣の王あくびして

恋猫の雨にも負けず啼きにけり

万年を生きねばならず亀鳴けり

一の丘二の丘霧らひ百千鳥

昼酒の俄かにねむき蛙かな

固まつて其処が都や蝌蚪の国

恙なく今年も出でし蛇に遇ふ

みちのくの復興とほし春の泥

遠雪崩ひゞく旅寝の耳の奥

青空の青をふやして揚雲雀

からつぽの財布がひとつ鳥帰る

春の鴨阿国の像は空あふぎ

引鶴にけふあめつちを開け放つ

柳絮とぶ民の広場に民溢れ

口開けて口の数だけ燕の子

料峭に架かりて長き渡月橋

白梅に醒め紅梅に惚けにけり

黙々と人はいそしみ初桜

あをあをと潮満ちくる初桜

ギモーヴちふ仏蘭西の菓子春の風

あぶり餅炙る煙もうららなり

カナリアは歌を忘れず木の芽風

かざぐるま恋とは風のやうなもの

一點となり大きなる青き踏む

天井に龍の眼のあるおぼろかな

東風吹かば出船ま近き遣唐使

天平の色となりゆく春野かな

かげろふへ皆消えてゆく一人づつ

春星のけぶれる奥の春の星

幕の内弁当に春闌けにけり

岬にも四五戸住みなす初つばめ

赤き蟻黒き蟻出て交はらず

父の忌の近づきをれば芽吹くなり

喪の花と知る筈もなき胡蝶かな

てふてふや北緯三十八度線

啓蟄やふりがなを読む虫眼鏡

蛇出でて見れば優しき婆の葬

眼玉より乾ける魚涅槃西風

水ぬるむ道を教ふる絵の狸

母子草母逝きてより目につくも

方程式解かうとすれば目借時

喩ふれば虚数のやうな春愁ひ

くもりのち晴れてときどき春愁ひ

かへりみて蜷の道にも似たること

鉛筆を噛む癖とともに進学す

春光のさゝ波なせる千枚田

豚落ちて黄河の春を泳ぎけり

春を寝て未生以前を旅してをり

接木して人生のどの辺りなる

飯を食ふかりそめの世に接木して

虚しさの一隅に蒔く花の種

たそかれを舞妓のいそぐ柳かな

長閑さやイノダコーヒに人待ちて

龍馬の目切れ長にして沖霞む

もぐらにも戦があつて土匂ふ

何忘れ来しかげろふを振り返る

蝶翔てばてふてふとなる日和かな

化野に胡蝶の空のありにけり

空港に汝と別るゝ花粉症

北野より平野へ花をうかゞひに

朧夜の抜け路地いくつ先斗町

春暁の花のやうなる炒玉子

春昼や生八ツ橋を焼く香り

肉じやがの煮くづれてゐる目借時

春夜ふと黒髪匂ふをんなかな

白杖は道たがへざり百千鳥

大寺の屋根まで飛べて雀の子

ひとところ猫の執する春の土

青踏むや寺山修司ポケットに

うす紙をヒコーキにする春愁ひ

春愁の紙のひとひら鶴にして

春愁や三面鏡の皆わたし

Mといふ女の占むる春の夢

嘘泣きの女なだめて夜半の春

水ぬるむ近江に富士のありにけり

酒見世の意外な混みや菜種梅雨

モーツァルトひねもす奏づ菜種梅雨

春めくや海のもの到く二條駅

寄居虫の脚いそがしき九十九里

しやぼん玉飛んで蒼茫たる亜細亜

初音して珈琲の味けさちがふ

無農薬家庭菜園紋白蝶

滾ちつつ一期の鮎を上らしむ

仏飯を喰ふ捨仔猫喰へばよし

毀れたる木馬もまはる日永かな

かの人のその後を知らず藍微塵

花冷のつながつて出るティシューかな

まれびとを待つ花冷の京都駅

花冷や女につよき糸切り歯

陽炎や薄暮ゲームと云ひしころ

早すぎる死やつばくろの翻り

清滝の家並ゆかし上り鮎

都忘れ思ひだすことばかりなり

タクシーを拾ふ女人や花しぐれ

花種を蒔きて密かに存ふる

秒針の音聴き澄ます櫻かな

言霊の駆け抜けてゆく櫻かな

いとはんも又こいさんも花衣

待ち合すフラミンゴのまへ花衣

ほつこりとして鍵善に花の宵

校庭に花理科室にスケルトン

来てみれば果して散れる山桜

キネマ出てまなこの白む日永かな

春の艸紙ヒコーキの不時着す

うららかに欠伸ちふもの伝染す

猫の待つ家に帰り来し春の暮

なにもせぬことの贅沢春の宵

古傷の疼くもならひ芽立ち時

雲雀啼くあめつちといふ大き籠

頭の中も晴れ渡るなり揚雲雀

恋をはり猫に猫撫で声もどる

糸遊やむかしむかしの流行歌

周恩来詩碑もしとゞに花の雨

鯛の腹きれいに裂かれ花の昼

はんなりといふ京言葉花曇り

しつぽりと玻璃戸に濡るゝ春の闇

鰊群来海猫(ごめ)の数だけ海猫の声

お地蔵に誰が捨てゆきし仔猫かな

人形の眸のギヤマンの春愁ひ

春愁や貝のかそけく砂を吐く

醍醐水醸して咲ける櫻かな

老人の眼のすぐ潤む櫻かな

ひとひらの波ひとひらの花貝に

永き日のミナト神戸も見飽きたり

日永なる朱雀大路の起伏かな

髪断ちて君旅立てり弥生尽

桜鯛紀淡海峡晴れ極む

板前はむかし美男子花の宿

一力に停まるハイヤー花の雨

花咲いて祇園の夜空燃え易し

鍵善に真向ひなりし花衣

いもぼうを出てふたたびの花月夜

念々に我あたらしき櫻かな

USBメモリにしまふ櫻かな

花冷やふらんす窓の隙間より

花冷や切子グラスを出してより

あをあをと花冷の空ありにけり


BACK  俳句 田畑益弘俳句の宇宙HOME