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12月の俳句
田畑益弘 俳句新作


新着情報 画像12月

御破算で願ひましては十二月

千年の古都の水面の浮寝鳥

鶴も嘆かふ垂直に嘴立てゝ

をんな傘をとこが差して朝時雨

赤ん坊泣きやみ聖樹明滅す

止まり木のいつもの席の年忘れ

恋人とひそやかに逢ふ年忘れ

短日を永きと云ひし癌の父

亡き父のものも一枚重ね着て

邂逅や哲学の道枯るゝ中

束の間のからくれなゐの浮寝鳥

運命のせゐにしてゐるおでん酒

炎(ほ)の中に過去よみがへる大焚火

死亡欄読むひとゝきを夕しぐれ

クリスマスツリー角を曲がれば裏社会

鴨川の見ゆるお茶屋や蕪蒸し

鷹の眼が我には見えぬもの捉ふ

蟷螂の小首傾げて枯れにけり

しぐれては祇園の燈し華やげる

粘菌を視る虫眼鏡冬ごもり

爬虫類図鑑うつくし冬籠

冬籠るつむりの中の詰将棋

猫さまの家来となりて冬籠

三寒の四温の兆す雨気かな

寒雀遊ばせたまふマリアさま

銃声のたび青まさる狩の空

凍夜ふと街角に降る電子音

はつふゆと書きてやさしくなりにけり

ひきしほの美しかりし湯冷かな

日記買ひ川の行く方見てゐたり

爆心の鬼哭の街の虎落笛

極月の火に悉く反故焚きぬ

大丸にあまたサンタクロースゐて

ふぐ買ひに姉三六角蛸錦

止まり木にひとり忘年会ぬけて

煮凝や町家の寒さ懐かしき

炬燵居の時に女とゆびずまふ

北へ去る硬き靴音夜半の冬

空箱の中に空箱十二月

三条と四条が好きなゆりかもめ

よそゆきを着て白鳥を見に行かむ

湯ざめして等身大の我になる

酒ばかり届くを恥づる歳暮かな

狐火にぐつすり眠る丹波かな

底冷を踏めばガラスの扉開く

悪さうな漢ばかりや缶焚火

総落葉して安息日安息日

流水のごとひとゝせの過ぎてけり

風花に空似のひとを見失ふ

鶴凍つる姿正しく歩みては

白鳥が翔く渾身の頚となり

十二月八日未明の放屁かな

三十六峰しめし合はせて眠りけり

首に皆名札をかけて室の花

けふ一つ年をとりたる砂時計

どこやらに帽子忘れて四温かな

冬の雨せつなき恋をしてゐたり

風花やはんなりといふ京言葉

賀状書き了ふ皓々と月ありぬ

おでん酒をとこの背中皆かなし

寒月を去ぬ水銀の如き疲れ

若き日の悔いが犇く冬銀河

返り咲きしこと仏の母に告ぐ

母遺す編みし毛糸の未来形

ちちははは既におもひで忘れ花

雪つぶて雪へ抛りて一人かな

熱燗にゆつくり忘るけふのこと

人参を微塵にすれば食ぶるひと

極道の泣き上戸なるおでん酒

今にして遠火事に似る青春よ

北風の中逢ひにゆく逢ひにくる

酢茎漬洛中の朝簡素なり

一本の鉛筆で画く枯野かな

人生の誤算のごとく隙間風

大原の雪に籠りて牡丹鍋

人形の眸の恐ろしき冬座敷

鎌鼬座敷わらしもダムの底

冬の蠅存ふること咎に似る

仕合せはおのが蒲団に死にしこと

雪の町古きキネマを見るごとく

賀茂にあり酢茎を買うて鳥を見て

哲学の道の枯るゝを歩むかな

一しぐれ千本鳥居華やげる

そのかみの修羅の庭なる兎狩

冬かもめ十万噸が浮いてゐる

これやこの枝垂桜の枯木かな

引き算のさみしさ冬の蝶一つ

牡蠣食うて賀茂鶴酌みて呉にあり

季寄せの背繕ふことも年用意

狛犬の阿吽の分かつ霜の朝

炬燵居の脳の大部を使わざる

北風や貝殻なべて深手負ふ

白味噌を錦に買うて年の暮

年の瀬の背中押されて足が出る

年の瀬をやをら過りぬ霊柩車

宝籤買うてしまひし年の暮

京さして風花の舞ふ荼毘の空

雪をんな曲がつても曲がつても迷路なる

鱒鮨のつめたく旨き煖房車

天井を電車の走るおでん酒

極月の息かけて拭く位牌かな

へその緒を出してしまひて年の暮

冬深し標本室の千の蝶

ひと時をひそやかに逢ふ年の暮

天狼やけふまた一つ年とりぬ

天井をつぶさに見たる風邪籠

満目の枯れを見てきし深睡り

千年の古都の水面の浮寝鳥

橇の鈴白地図の国ひろびろと

団欒を覗いてゆきぬ雪女郎

冬ぬくき電気を通すプラスチック

只ならぬをとこが曳ける夜鳴蕎麦

枯木中枯木一樹を画きゐたり

年忘れ常なる加茂の流れ見て

おなじ見世おなじ止まり木年忘れ

凩や穴だらけなる人の貌

半熟の黄身うるはしき冬曙

絵屏風の虎耽々と我を視る

顔見世や名代の蕎麦もめあてにて

煤逃の立呑酒のきゝにけり

掌の中の手の冷たさも憎からず

眠る山一湾の瑠璃抱擁す

砂時計の砂丘に沈む冬至の日

室花の密室殺人事件かな

原稿紙まだ白きまま木の葉髪

毛布被り蛹のやうに寝てしまふ

猪鍋の煮え立つ比叡颪かな

から風や紙の葬花の紙の音

北風やおのれ支ふる一行詩

わがために紅き花買ふ寒暮かな

首の骨今宵よく鳴る柚子湯かな

凍滝に一声落とし禽失せぬ

暖房の中の暖房鰐を飼ふ

天皇の日やねもごろに墨を磨る

底冷を奔る川の面青ざむる

越前の蟹の香満てる鈍行車

顔見世も千穐楽や川に鳥

臨終の褥の裾の冬の猫

しぐるゝや吉野太夫の墓どころ

死後の界たれも知らざる日向ぼこ

樹氷晴鳥獣の死処誰も知らず

一服の紫煙のゆくへ年惜しむ

大時計の内部の暗き掃納め

枯葉舞ふ夜やウヰスキー白湯に割る

月光の剥落やまぬ木の葉かな

一体のほゝゑむ俑と年をとる

にんげんを篩にかけて年歩む

先斗町はんなりと年暮るゝかな

年歩む大き静寂ありにけり

大年の大きしゞまを流れ星

年の夜の観念したる無言(しゞま)かな


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