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10月の俳句
田畑益弘 俳句新作


新着情報 画像10月

秋深き音のあつまる地獄耳

絵のやうに秋果を盛りて孤りなり

思ひ出すをんなの体温火恋し

蓑虫の吹かれて遠き昭和かな

爽やかに話して他人同士なる

虫の夜のなかなか寝顔美人かな

忘れてもいいことばかり草の絮

百獣の王の瞑想秋深し

冷やかに裏切る猫を愛するなり

十月をひと美しく闊歩する

十月を十色に装(よそ)ふ乙女たち

落鮎の落つる離宮の畔かな

サンドウィッチマン雑踏に老ゆ鰯雲

光陰の外(と)に掛けられし鵙の贄

まつすぐに逃げたる猪は撃たれけり

ねんごろに紅を注しゐる竜田姫

末枯や結びたる実は朱を尽くし

黄落の水の迅さとなりにけり

北嵯峨の雨すがすがし新豆腐

祇王寺の滝口寺の初もみぢ

生くるにも死するにも良き秋天よ

コスモスの揺れてまぎるゝコスモスに

一粒の露の中なる太虚かな

凶年をきれいな蝶の舞ふことよ

うかうかと昏れかゝりたる茸山

ばつた跳び亜細亜大陸蒼茫たり

一杓の水も冷まじ三千院

松手入せし香に晴るゝ妙心寺

地球まろく葡萄一粒づつまろし

日本の色となりたる熟柿かな

鈴虫や寝物語のとぎれがち

半眼に猫の見透かす長き夜

長き夜の猫のお相手致しけり

仰のけか俯せなのか捨案山子

大陸の匂ひと思ふ落花生

鳥は翔び人は歩みて菊日和

花野風ここは鈍行のみとまる

奥嵯峨の竹伐る音を巡りけり

鳳仙花一所懸命爆ぜにけり

初鴨や洛北の水青まさり

町川に落ち町を去る一葉かな

好晴のつゞき秋思のつゞくかな

この辺りむかしのままや木守柿

秋耕の一人を攫ふ岳の影

深秋の一人に一つ影ぼふし

かにかくに白川に散る柳かな

柳散るぎをん新橋巽橋

水澄みて近江に富士のありにけり

秋蜂の客死してをる畳かな

蟷螂の畳を歩く天気かな

柿干して御歳百となりたまふ

銀河より漁火一つ帰り来る

のゝ宮に恋の絵馬増ゆ竹の春

粧へる山ふところの荼毘の径

きりぎりす昔男に鳴きにけり

この天の高さに思想掲ぐべし

しんしんとして人恋し火恋し

実柘榴の割れたるといふ吉事かな

デッサンの線走らせて黄落す

天体とはなれず木の実独楽止る

下町や電線多きいわし雲

秋澄める横浜沖を見て飽かず

恐竜展見てゐて残る蚊に喰はれ

秋しぐれ立食ひ蕎麦に舌焼きて

つぶやけば消えてしまひぬ秋の虹

身のうちの鬼を宥むる温め酒

時計とふ哀しき機械夜業人

色変へぬ松も老いたり元離宮

天守閣址に一人や秋の声

ひとりごつ秋の深むを知りながら

来し方へ私を連るゝ鰯雲

真顔とは寂しかりしよ秋の水

晴れ極まりゐて秋刀魚を食ひたき日

鬼やんま父のなき子が憧るゝ

読みさしに戯曲を閉づる露月夜

この秋思よみひとしらず読みてより

化野に蝶見てよりの秋思かな

螻蛄鳴くや身より心の疲れゐて

小鳥来て弘法さんの日なりけり

ランチにはケーキがついて小鳥来る

声量のゆたかなる空鳥渡る

菊日和錦にそろふ旬のもの

鉛筆の芯をするどく黄落季

あした死ぬ蜉蝣に透く夕山河

自分史に落丁の章蚯蚓鳴く

道化師の月のみの知る素顔かな

玲瓏と霜降の空ありにけり

惜秋や骨董街をたもとほり

この道になまへはなくて明治草

大花野こどもがふつとゐなくなる

時代祭鹿毛も栗毛も気負ひゆく

爬虫類つぶさに視たる秋日影

且つ散りて今し全きもみぢかな

稲妻のふところ深き丹波かな

鬼が先づ親に呼ばれて秋の暮

深秋のすゝみ癖ある時計かな

水筒の番茶がうまし野菊晴

秋惜むみたらし茶屋の外床机

化野やきのふのけふを秋時雨

三叉路に至れば別る秋の風

ひとづまと訪ぬる嵯峨の薄紅葉

秋郊や雲の影追ふ雲の影

青春の一つのりんご齧り合ふ

秋ともし畳のうへに芸妓老ゆ

日本の秋のゆふべの藁火かな

野の宮といふ停留所草もみぢ

うまさうな酸素を吸ひに星月夜

医のゆるす一合の酒温めむ

指にまた包帯をして夜学生

髪切ればこころも変る鵙日和

コンピュータひとり働く星月夜

一服の向精神薬露けしや

のら猫にノラと名づけて花野かな

濁酒酌むここは銀河の番外地

バス降りて電車に乗りてゐのこづち

百年の家のくらがり綴刺

逢ふまじと決めし水草紅葉かな

明く暗く桜紅葉の盛りかな

ひとけなき松虫草の盛りかな

もの思ふひとりに小鳥来てゐたり


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