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5月の俳句
田畑益弘 俳句新作


新着情報 画像5月

渦潮を見て昏々と睡るべし

水打つて暮色とゝのふ祇園町

父に遺書なく籐椅子の窪みをり

牛蛙天の穴より雨が降る

全身をしづかにしたり河鹿笛

薫風や近くて遠き九十九折

リラ冷の空あをあをと再会す

ロベリアの白き畔の逢瀬かな

フリージアけふも香りてけふも病む

京ゆばのさゝ波模様春しぐれ

憲法記念日渋滞の真只中

松蝉やとろりと暮るゝ与謝の海

天網恢恢ごきぶりに侮られ

一汁一菜一人暮しの涼しさよ

山国に帝のねむる遅桜

その中の一つ贔屓に金魚飼ふ

一つ死に二つ足したる金魚鉢

俯せに寝てゐるをんな明易し

春の蚊や青磁香炉のほとりより

長閑なるものに帝と鼻毛かな

タンポポも占領されし平和かな

珈琲に渦巻くミルク鳥雲に

しやぼん玉飛べば蒼茫たる亜細亜

鳥雲に河は苦しく蛇行せり

惜春の堤に寝ねてしまひけり

春暁や花のやうなる炒玉子

日の本に子供少なきこどもの日

鮨屋より酢の香りきて夏はじめ

夏月やふはりと豆腐沈みたる

目開きしまま熱帯魚口づけす

斑猫や帝のねむる京の果

白百合の香のくるほしき訣れかな

母の日の母なき吾は遠を見る

カンバスはまだ白きまゝ夏は来ぬ

麦秋の納屋に終りし少年期

たかむなの長髄彦のごと立てり

あさにけに子鮎の飴煮少しづつ

竹夫人ときどき愚痴も聴いてをり

卯の花腐し昼酒も悪しからず

卯の花腐しをんなの貌も見飽きたる

静脈の腕に透きて新樹の夜

お持たせの柿の葉鮨をともに食べ

梅漬や朝餉つましき京をんな

天麩羅にするか鰻か河原町

三条も四条も見えて川床涼し

焼酎や座敷童子と酔ひ痴れて

立呑の冷酒膝より効いてきし

日を送り月を動かす牡丹かな

荒草のみるみる生ひて聖五月

夜の蟻や堂々巡りする思案

風青し杜の都のスタジアム

サングラス掛けて人の眼窺ひぬ

都心夕焼群れてゐて皆孤独

朝焼褪せ高層街衢起動する

未亡人心耳すゞしく老いたまふ

一雨の予感に揺れて夏のれん

学校に来ぬ子草笛上手なり

かうもりや七堂伽藍真の闇

清水の舞台より翔つ鳳蝶

汚れずに行けよ心の碧揚羽

夕焼小焼ひとりの飯はすぐ炊けて

場末とはこの釣堀の臭ひなる

漁火を肴にしたる冷し酒

死にさうな金魚ばかりを掬ひけり

箱庭を母郷に似せて作るべし

骨相といふ顔現れて昼寝人

空に富士顕たせて卯波皐波かな

水更へて金魚に鳴らすモーツァルト

太陽を一個残してラムネ干す

玻璃に守宮灯を消しがての夜頃かな

傾ぐだけ傾ぎてヨット疾走す

山蟻の歩み何より山を悉り

殺し遣る畳に足掻く火虫をば

母の日やのこりてながき鯨尺

蜜豆や親子ほど年はなれゐて

大阪のソースの香る夏の月

掛香の香とすれちがふ先斗町

大学に七不思議あり青葉闇

汝にさへ秘むる本心かたつむり

門灯に守宮を飼うてゐる如し

夜の蟻を這はせて未だ白紙なる

われ在りやなしや瀑布の音の中

ひらかなはちからをぬきて螢の夜

とらへては放つ螢や思ひ川

勢(きほ)ひ立つをとこよろしき祭かな

ともあれと酒呑まさるゝ祭かな

飾られし馬も勢へる賀茂祭

飾られて葵祭の馬となる

風聞の蛇がだんだん大きくなる

山彦を正客として夏座敷

天近うして人やさしお花畑

茹で過ぎて黒ずむ卵麦の秋

蟻ねぶる蟻喰の舌溽暑なる

天牛の影を怖がるめのこかな

殺めにし蛇生き返る夢の中

玉虫や形見も減りし桐箪笥

好日や錦市場に鱧買うて

化野や仏に寄れば蚊の鳴ける

糞曳きてけふも元気な金魚かな

酒少しぬくめ卯の花腐しかな

昼酒に卯の花腐し愉しめる

夕凪いでサーファーの寄るグリルかな

ががんぼも命淋しき灯下かな

ががんぼと同じ淋しさ同じ窓

火虫すらいとほし紛れなく孤り

百合のごと気取れるかほや柩窓

日曜のすぐ午となる籐寝椅子

明易き吾の枕を汝が抱く

大緑蔭金管楽器鳴りいづる

もゝとせの老いの端座や花菖蒲

女人より泊めぬ禅林沙羅の花

蝸牛落ちて始まる第二幕

雲海の波の秀そこに来てをりぬ

まひまひの舞に落日落ちかぬる

逸早くマネキン人形衣更ふ

マネキンの眸みづいろ夏帽子

ハーバーに風を見てゐるサングラス

饒舌な午後サイダーの泡沸きて

生れたる蜻蛉の眼に無数の宙

鰈食ふ裏返しては鰈食ふ

強きもの死臭もつよし兜虫

兜虫死して少年期がをはる

緑蔭に坐して水よりしづもれる

青松の白砂を借りて蟻地獄

蚊の声す寂一文字の墓の裏

この下闇を祇王寺と云ふべかり


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