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10月の俳句
田畑益弘 俳句新作


新着情報 画像10月

美しきひと十月を闊歩せり

右手より左手冷ゆる訳のあり

凶年を綺麗な蝶の舞ふことよ

竹春の車折(くるまざき)ちふ小駅かな

浮くからになかなか死ねぬ秋の蠅

鉛筆の線走らせて黄落す

灯火親し猫一匹と一人にて

虫すだく夜の一隅に星死ねり

すでに亡き星の光も水の秋

色鳥や飽かず眺むる洛外図

片肢のバッタ片肢で跳ばむとす

黄落の水の迅さとなりにけり

バッタ跳んで亜細亜大陸蒼茫たり

死所あへて水面選みし秋の蜂

晩秋や十人十色のよそほひに

鉦叩はじまりあればをはりあり

稲妻のふところ深き夜空かな

声量の豊かなる空雁渡し

秋晴を来し眼の昏らむ屋ぬちかな

コンピュータひとり働く星月夜

冷やかに裏切る猫を愛するなり

さはやかや韋駄天の風雲を追ふ

死なばこの風の芒を褥とし

サルトルの斜視にはじまる秋思かな

全身をしづかに虫音聴いてをり

昧爽に醒むるこの頃草ひばり

ゆびさきに覚えなき傷秋の虹

一服の向精神薬露けしや

残る蚊の刺す盲点といふがあり

十六夜の家路をいそぐ理由なし

下町や電線多きいわし雲

更待や心残りが一つある

月正視おのれを恃むほかあらず

霧の夜の抱き寄せやすき肩なりし

鵙の贄人目に触るゝ高さにて

日本の色となりたる熟柿かな

はらわたの冷えの確かに柿喰へり

のら猫にノラと名づけて秋野かな

神妙に猫のはんべる障子貼り

貧乏神見え隠れする芋嵐

濁り酒ここは銀河の番外地

百獣の王の瞑想秋深し

秋深き邸の奥のセロの音

飾られて亡父のカメラ秋深む

雁や暦剥ぐこと淋しかり

秋の暮「もういいかい」に返事なく

秋風や触れて淋しきあばら骨

再会を誓ふシスコの夜霧かな

しあはせといふは退屈夜長猫

夜業人なべて機械のしもべなる

夜食摂るけふがきのふになるしづけさ

バス降りて電車に乗つてゐのこづち

黄ばみたる写真に見入る秋燈下

愛憎のあはひを揺れて曼珠沙華

わが推理迷宮に入り夜長き

夜長し女に将棋教へゐて

思ひ出す女の体温火恋し

釣瓶落し影法師から歩き出す

冷まじやシャッター街といふところ

曇りのち小鳥来てゐる金閣寺

裏日本星が飛ぶとも飛ばずとも

水筒の水大切に野菊晴

深々と菊の香を吸ふ訣れかな

夕風に色ある如し花梨の実

秋蜂の客死してをる畳かな

爽やかに話して他人同士かな

十七夜指環はづして逢ひに来し

うまさうな酸素を吸ひに星月夜

流星の千夜一夜のものがたり

一瞬に五十路となりし流れ星

古歌のごとき恋せむ吾亦紅

虫の夜のなかなか寝顔美人かな

よく遅刻すれど休まぬ夜学生

指にまた包帯をして夜学生

眉月へそつと遊びに出でにけり

白犀の白からぬ角草の花

切れ長のまなじりに散る柳かな

八千草の床しきなまへ数へけり

秋の夜の所詮哀しきピエロかな

秋愁の一人乗りたる観覧車

鬼の手に背中押さるゝ秋の暮

日の本の涙ぐましき砧かな

忘れてもいいことばかり草の絮

自転車で二マイル帰る銀河かな

この道になまへはなくて明治草

誰もゐぬうしろの正面秋の暮

サーカスの不意に哀しき秋夜かな

深秋のすすみ癖ある時計かな

秋雲や十で神童いまいづこ

露の世に行方不明の男女かな

死ぬまでは生きねばならぬつくつくし

酔醒や月光の水腑に沁みて

蚯蚓鳴くいつしかふたり黙しゐて

逢ふまじと決むる水草紅葉かな

頽(くづほ)るるけはひを常に秋薔薇

秋虹が消ゆ東京の早歩き

夕月夜京の山並たをやかに

をさなごの葬に秋冷仮借なし

川の名もここより変る秋の鮎

秋深き音のあつまる地獄耳

秋夕焼朱鷺の滅びし話など

コンドルが金網を咬む秋夕焼

曖昧にしておくことも温め酒

雁やうなじより人老けてゆく

オリオン流星雨今夜は晴れよかし

抜かりなく紅葉ひとひら栞り来し

手になじむ季寄せに更かす秋夜かな

ぬばたまの耳塚といふ虫の闇

ワンタンに舌を焼きたる夜寒かな

囮守る少年すでにタバコ知り

鬼が先づ親に呼ばれて秋の暮

一鳥の鋭声に応ふ紅葉谷

しろがねの水系に泛く月の舟

絵のやうに秋果を盛りてひとりなり

ひと気なき松虫草の盛りかな

柿美し絵心なきを悔ゆべけれ

盗人の手になりさうな熟柿かな

誰が声ぞ林檎食べよと囁くは

百年の家のくらがり綴刺

鉛筆の芯を鋭く黄落季

わが愛すジャン・コクトーという爽気

誰も知らぬピエロの素顔月が知る

壁の中水の音して無月なる

日の本の秋の暮なる藁火かな

星月夜玻璃戸開くればささめける

白山系へ秋蝶のさやうなら

深秋や亡き人多き人名簿

木の実雨きそふ二の丘三の丘

かの人をおもひつめたる紅葉かな

人間の澱みの頭上鶴渡る

もの思ふひとりに小鳥来てゐたり

鈴虫や寝物語のとぎれがち

医の宥す一合の酒あたゝめむ

深秋やうごく筈なき石見つめ

溺れたき秋夕焼の水際かな

生真面目といふ淋しさや木の実落つ

山昏れて色おそろしき紅葉かな

明く暗く桜紅葉の盛りかな


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