田畑益弘俳句の宇宙 ロゴ

7月の俳句
田畑益弘 俳句新作


新着情報 画像7月

七月の触れてつめたき猫の鼻

人類の亡びし星のあぶらむし

端居して何を見てゐる深き闇

エマヌエル夫人とおぼし避暑ホテル

このひとの項あえかに庭花火

わが生のどのあたりなる夕焼川

麦笛が上手でいぢめられつ子で

年半ば梅雨半ばなる不如意かな

震源地京都南部と昼寝覚

川床の昼は肋を晒しけり

山のけはひ闇に感ずる端居かな

一服の紫煙のゆくへ夜の端居

釣堀の水の臭ひが好きで来る

避暑の宿ピンポンばかりしてゐたる

書くこともなしと書く日記羽蟻の夜

独語ならず蠅にもの云ふピエロなる

女人より泊めぬ禅林沙羅の花

旱天をきれいな蝶の舞ふことよ

東京を海と思へばくらげかな

木隠れに源氏名の墓月見草

源氏名の一つ浮みて虹淡し

香水や未だ源氏名より知らず

ふぐりまで濡らし夏河徒渡る

幽霊のやたら肥えゐて夏芝居

鱧食べて京の七月始まれり

火の酒に氷を足せり旱星

夜のシャワーに流すやうにはゆかぬこと

すつぽんの生き血カクテル暑気払ふ

おのづから鵜籠に入りて鵜の帰る

命令に背きて夜の蟻となり

蟻よぎる蟻地獄にも運不運

蟻が運び去り一件落着す

死に群るゝ蟻口々に神に謝す

戦争になるかも知れぬ毛虫焼く

昼顔や寝起きの悪き女なる

あなうらに奈落蹴りゐて立泳ぎ

背泳の背中に水の地球かな

一天をほしいままなる水馬

羅の滑り落ちたる痩躯かな

火取虫火に飛び込める片想ひ

空蝉の真闇見て来し眼を畏る

阪神がまた負けてゐる冷奴

仙人になりそこねたる山椒魚

東山暮れても蒼き橋涼み

片蔭や町家の奥に酢の香して

炎天や大統領も影一つ

身の内の鬼を宥むる冷し酒

楊貴妃と名づけし金魚すぐ死ねり

階段にチコが寝てます日の盛

兜虫武蔵と名づけられ孤独

螢舟ゆらりゆらりと二人ゆれ

書き惑ふ鬱といふ字の茂りかな

蝉死んで荷物を降ろしたる軽さ

森深く蝉に迷ひし耳二つ

「祇園会 I」

室町も二階囃子の夜風かな

鉾立ちてまなざしさやに京の人

迅雷に月鉾の月ありにけり

また太き雨が降るなり鉾祭

地下出れば祇園囃子の最中なる

大降りに祇園囃子の昂ぶれる

 

大丸のまへに貰ひし団扇かな

ハイヒールに足踏まれたる巴里祭

炎天ゆ熱きもの塗り道なほす

空腹の青春なりし昼花火

鮎食べて風通し良き六腑かな

夕網のものばかりとぞ夏料理

存在を幽けくすれば蜻蛉来る

砲丸の美しかりし夏天かな

夏枯れの賽の河原の風車

三伏の祖の世よりの置き薬

三伏の箸の先なる箸休め

これがまあ京の暑さや阿国像

蝉しぐれ京に七口ありにけり

青春の『されどわれらが日々』曝す

 

「祇園会II」

宵山を抜けくらがりに口づけし

清正の鎧も屏風祭かな

坪庭もかいまみ屏風祭かな

四方より囃子せゝらぐ鉾の辻

雷も来よ祇園囃子の佳境なる

碧眼も交じらひ鉾を曳きに曳く

鉾まはす裏方のかほ佳かりける

鉾廻すをとこのきほひ頼もしき

耳うちや祇園囃子のいつまでも

 

骸骨に袋かぶせて夏休み

泰平の十万発の花火かな

人も喰らふか平成の猫の蚤

等分にしかと切りたるメロンかな

緑蔭にはひりて恋となりにけり

化粧ふれば舞妓は暑さ知らぬなり

喪の酒にゑふ鰻屋の二階かな

らふそくを一本立てゝ百物語

姿見はおそろしきもの夏邸

くらがりに古鏡一枚お化け屋敷

肝試しすれ違ひしは誰ならん

片蔭や昭和のにほふ古本屋

遠花火停まりし時計停まりしまま

狐の嫁入り蝸虫のにほひかな

薔薇園の薔薇の真中に立ち昏らむ

夏惜むタクラマカンの石一つ

夥しき蚋のかなたの明日かな

涼しげな乞食山頭火かもしれぬ

父の忌や戸棚の奥の蝮酒

亡き母の財布より出づ蛇の衣

骨相といふかほのある大暑かな

いうれいに訊ねてみたる落し物

大阪の水の匂ひや夏の月

富士山に夏帽忘れ来てをかし

日蝕のあとの日盛り飯を食ふ

日盛りのわが身に水を注しにけり

薬莢の灼けしを拾ふ絹の道

残念なき蝉の骸や仰のけに

黙祷のまなうら赫き蝉しぐれ

蝉はひた鳴いて諸人黙祷す

わくわくとぞくぞくと夕立つてくる

大夏野ひき返すには来過ぎたる

一匹足す一匹残る金魚鉢

かりそめの水に金魚の生死(しょうじ)かな

もろもろの匂ひを歩く夜店かな

美しきゆゑに買ふ飴夜店の灯

夏の月であり通天閣であり

蚯蚓這ふ西方探りあつるまで

根の国の蚯蚓ひかりに出でて死す

手花火の向う三軒一人つ子

覚めぬともよきことも覚め遠花火

瞑れば遠花火よりとほきこと

金閣の金見過ぎたる霍乱か

土用波はろかに戦ありしごと

ひきしほに汐木をかへす夏の果

立泳ぎ見ればまはりに誰もゐず

氷菓子舐む無思想の舌染めて

一口に声生まれたる岩清水

白くさへ見えて青空炎えてをり

比叡(ひえ)の蚊の比叡に去にゆく蚊遣かな

恙なきあかし蚊遣の香に更けぬ

片蔭や少しくのこる京町家

母の眸に少しく痩せて帰省かな

追ふものは追はるゝものや走馬燈


BACK  俳句 田畑益弘俳句の宇宙HOME