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5月の俳句
田畑益弘 俳句新作


新着情報 画像5月

過去よりも未来を想へ五月の夜

哀しみの鋭(と)くよみがへる新樹の香

つきつめて考ふる癖若葉光

寝るまへに酒飲むならひ灯取虫

宿坊の消灯早し木葉木莵

母の日の逢瀬母なき者どうし

永き日や無聊の足に猫戯れて

渋滞の只中憲法記念の日

知恩院三門どかと夏に入る

カレーの香溢れ木屋町薄暑かな

夕焼や薄暮ゲームと云ひし頃

うつ伏せに寝てゐる女明易し

天龍寺さま門前に氷菓舐め

御持たせの柿の葉鮓や共に食ぶ

鼈の生き血に始む夏料理

麦秋の只中に組む白き画架

麦秋の夕青空を淋しとも

蟻潰す時たしかなる硬さかな

フィアンセのふつとゐずなる花氷

花氷少しく痩せて華燭果つ

千人の千のまなざし花氷

水鉄砲子供の狙ふ大人の国

近々と見て水中花屈折す

廻転ドア香水の香のそこはかと

鰐なんど飼うてをらるゝ夏邸

わが手より大きな人手珊瑚食ふ

をさなに捕らはれて蜆蝶の馬鹿

TシャツにCHANGE!の文字夏来る

ポスターにオバマ氏笑ふ夏の空

父好きし鰻を食はむ忌日なる

錦やな朝から鰻焼く香して

我が黙と汝が黙の間のソーダ水

水打つて抜かりなかりぬ先斗町

しらたまの姨捨山の夏の星

白樺の夜もしらしらと星涼し

イタリアの国旗お洒落や花は葉に

遊船に油彩のごとし嵐山

大きなる箱庭なりぬ嵐山

しんがりはしどけなきさま蟻の列

しんがりの遂に逸るゝ蟻の列

いつてんの穢として佇てりお花畠

お花畠天近うして人やさし

卯の花腐し女のかほも見飽きたる

葉桜やサンドウィッチですます昼

鹿の子やをさなの声にさへ怖ぢて

折れさうな脚をはこびて鹿(か)の子かな

一本道詮なく黒穂見て過る

少年と少女の秘密麦は穂に

掬ひ来し金魚すぐ死ぬ憂世かな

金魚売もロバのパン屋もはろかなり

亀の子のひしめいてをり売られをり

狐の嫁入り雨蛙色変ふる

昼寝覚の眼にガリレオ温度計

昼寝より覚めて戻りしくだらぬ世

昼寝せり大黒柱背骨とし

父逝きし日より減らざる蝮酒

無辜の蛇殺めて一つ罪ふやす

冷房の効きゐて壁に原爆図

ポケットに寺山修司麦の秋

お通しの酢の物の香や夏のれん

喪のひとの黒を着こなす涼しさよ

喪疲れは頬に出でゐてサングラス

ひろうすと云ひて涼しき京言葉

開かれて干されて魚涼しけれ

夏の月波止に油の綾浮かむ

しほさゐを身に溜めてゐる籠枕

滝壺の恐ろしければ又覗く

滝となり又滝となり又滝と

この下闇を祇王寺と云ふべかり

昼寝覚へのへのもへじ整ふる

種痘痕うすくもさだか更衣

衣更へて一生傷といふがあり

静物と化したき一日長端居

網戸よりわたしの不在わが覗く

蚊遣火の灰となりたる昨夜(よべ)のこと

水鉄砲喧嘩になつてしまひけり

羚羊に視られてをりし泉かな

嶮にして泉へつゞくけものみち

滝壺に透きゐて何の白骨か

短夜やグラスに残る琥珀色

白靴を汚す都といふところ

西方を日に確かむる大夏野

草喰める犀を涼しと見てゐたり

抱籠の抱かねば月に冷えゐたり

水槽の今の鰻を今し食ぶ

三条も四条も見えて川床涼し

右源太といふもゆかしき貴船川床

夜に入りて瀬の白まさる貴船川床

薫風も九十九折なる鞍馬山

山蟻に後るゝばかり木の根道

コクリコの碑に触れてゆく夏の蝶

川柳お昼はかろく蕎麦にして

高瀬川あくまで浅し灯涼し

更衣四条小橋に相逢ひぬ

暑き京なれどにしん蕎麦憎からぬ

通り抜けできますと路地涼しかり

夕景のやうやう夜景冷し酒

冷酒や放つておいてくるゝ見世

山積みのバナナの中の日本かな

「螢」

螢放生思ひ川とふ小流れに

ほうたるの今宵をとことをんなかな

丑三つを醒めまさりゐる螢籠      

顔くらく男女の覗く螢籠

手囲ひにほうたるの火はつめたき火

掻い抱けば仄と螢のにほひせり

 

サングラス一人になりて哭くをとこ

サングラスはづし日の本の地(つち)踏めり

夏の灯に亀もひよこも売られけり

真乙女も胡坐かく世や夏座敷

夏座敷若き胡坐と酒酌めり

真向うに如意ヶ岳据う夏座敷

まひまひの舞に落日落ちかぬる

夏蝶や北緯三十八度線

母なくて水母と書くは哀しかり

鰻食ふネオンうるさき木屋町に

ざりがにをバケツに死なす少年期

赤き蟹白き腹見せ死せりけり

古簾垂らしていつの世も濁世

鬱病の一人に茂り始まりぬ

怒りとはこころの浪費くらげの夜

抗ふをやめて海月になるとする

考へて海月疲るゝ東京湾

沈みゆく海月時には考ふる

蝸虫の思案定まり前進す

言の葉の乏しぼうたん讃むるには

老鶯や息継ぎ水の滾々と

奥の宮へと大いなり夏木立

情死とふ古き死に方誘蛾灯

青林檎一個買ひ来し描くため

別れ来てすぐに逢ひたく螢の夜


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