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3月の俳句
田畑益弘 俳句新作


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三月の空を去るひと来るひと

別れしひと住まふ古町の朧かな

川おぼろ瀬音は水に遅れけり

春の夜の髪かきあぐる女の香

薄氷を薄倖と読み違へたる

雛のまへ男の子たいそうはにかめる

京雛や滅びたる世のうるはしく

玲瓏と月に醒めゐる雛かな

遺影の祖母三十路のままや古雛

あたゝかや孔雀のまへに長居して

初蝶の失せて俄かに眼路昏し

向うでも捨仔猫飼ふちちははか

懸垂は十回どまり卒業す

卒業してもいつも来る土手がある

雨の夜の雛を納めししづごころ

ひきしほの端踏んでゐる雛送り

人は皆背中より老く鳥雲に

啓蟄の蚯蚓いきなり嘴の先

啓蟄の蚯蚓も日矢を眩しむか

啓蟄や留守居の蟻もをるならん

穴出づる蟻それぞれに行処あり

穴出づる蟻見て我に行処なし

蛇出でてやさしき婆の死を知りぬ

ふふむ飴ゆつくりと溶く鳥雲に

水筒に小さな磁石鳥帰る

珈琲にミルクくるくる鳥雲に

春めいて行方不明になりたき日

春昼のすはりの悪き首である

春昼や家出したくて家にゐる

春昼の脳の一室がらんだう

北野より平野へ花をうかがひに

撫で牛は石のつめたさ梅白し

白梅に醒め紅梅に惚けたり

底ぬけの身の寂しさと渦潮と

シェパードにも笑顔のありて野に遊ぶ

鶴引くや張りつめてゐる天の紺

耳の奥にコーンコーンと白鳥去ぬ

白鳥帰る空白をいかにせむ

春の河大いなる手に蛇行せる

働き蜂一心不乱とは恐ろし

春愁やカーテンの色変へてみる

青踏むや何も持たざる手がふたつ

貝殻を拾ふ人影春夕焼

春陰や眼疾(めやみ)地蔵を拝むひと

朧夜の抜け路地いくつ先斗町

洛中に辻子(ずし)とふ小径おぼろの夜

冴返る上七軒といふところ

朧夜の角を曲れば空也堂

朧夜や膏薬図子といふ小道

朧夜やろうぢと云ふも京言葉

春塵や人間のかほ穴だらけ

種芋を埋めて膨るゝ春の土

春泥の径の果なる縁切寺

春の雲ひとり逸れて眺めゐる

春星や影絵となりし木馬たち

春の月つむりに雫落しけり

湯上りのかほを向けたる春満月

春月の出てひとひらの雲母波

霾天下怒り喜び泣き笑ふ

うぐひすの鳴く絹糸のやうな雨

息かけて拭ふ位牌や朧月

竹秋の門より詣づ天龍寺

東風つよき鄙にも銀座通かな

なにもかも忘じて春のちぎれ雲

奥津城の井のゆたかなる春彼岸

おもむろに鬼門の山も笑ひ初む

ひたすらに田を鋤く人や春の虹

春虹や病む人につく嘘一つ

ひとり見て哀しうなりぬ春の虹

遅き日の夕青空を歩きけり

充分に歩きて春の夕焼かな

一人逝き一人生るゝ初櫻

板前はむかし美男子花の宿

鯛の腹きれいに裂かれ花の昼

きのふけふ近衛邸址花の冷

永き日を憂しと病者は眼を閉ぢぬ

人中に眼鏡汚れて日永かな

眠らむとすれば泛みて花白き

念々に我あたらしき櫻かな

奥嵯峨の鐘の音こもる養花天

花疲れアイスクリーム所望して

ぬばたまの山の闇負ふ花篝

あをあをと花冷の空ありにけり

たれかれも吾も花人や嵐山

花を背に川を見てゐる花疲れ

一人づつ消えて行きにし花の雲

咲き満ちて嘘一つなき櫻かな

花冷の花見小路に遊びけり

のどけさやこの頃呑まぬ置き薬

花種を蒔くつれづれの白きゆび

目を借られゐて鈍行の線路音

各駅に停まり春星満つるかな

いそがしく山蟻走る木の芽季


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