俳句 田畑益弘俳句の宇宙

田畑益弘 俳句新作
田畑益弘 俳句新作


新着情報6月

美しき思案のさ中梅雨の蝶

梅雨の闇脳髄(なずき)の闇につらなれる

蛇のゐる気配に踵かへしたる

ざりがにの死の臭かりしバケツかな

眼が合へば幽かに嗤ふ鯰かな

鯰の髭なにか感じて濁りに失す

くさぐさの我楽多のこし暑き死よ

ナイアガラ瀑布の前に無となりぬ

行きゆくやたゞ六月の日を恃み

夏めきて流石に象の食べつぷり

見事なる食ひ意地にして毛虫なる

獣にして草喰めるもの皆涼し

病葉に残る青みの地球かな

鮎食ふやしきりに山の姿讃め

麦笛やいつも喧嘩に負くる子の

水中花どこから見ても屈折す

かなぶんの永き仮死とは真実(まこと)の死

でで虫に生れ太陽を嫌ふなり

屋上のひと屈伸す更衣

星涼しシルクロードに仮寝して

八ツ橋のニッキの香り梅雨晴間

空梅雨を仰ぐなりして陶(すえ)の亀

臨終ののち風鈴の鳴つてをり

旅人(たびと)みなデッキにこぞる夏の星

二人来て一人去る夜の噴水

斑猫や帝のねむる京の果て

ごきぶりの愈々肥えて我は痩す

子かまきり一人前に斧構ふ

光陰は銀色のすぢ蛞蝓(なめくじり)

冷し中華円卓にして相席で

やさしいのやの形して糸とんぼ

舟虫と見れば即ち失せてけり

方程式解けぬも梅雨のせゐにする

黴の書の扉にゑまふマルクスよ

時の日の待てば五分の永きこと

鱧知らぬ東をみなと鱧食べに

ひとりゐや烏賊なと裂きて昼の酒

薫風のおうす頂く床机あり(おうす=薄く淹れたお抹茶のこと 京言葉)

夏の宵ぶぶ漬でもとすゝめらる(ぶぶ漬=お茶漬のこと 京言葉)

夏帽の飛ばされ易く飛ばされし

黒猫の金色の眸(まみ)片蔭り

白妙の小流れに遇ふ茂りかな

大夏野絵地図恃みに行きゆくも

譬ふれば夏落葉なる往生か

短夜や指環はづせば指かろし

白地図に涼しき国のありにけり

数へしは十まりほうたる乱舞せる

さりげなく父の日の父旅にあり

素描とふ涼しきことにいそしめる

定規涼し其に引く線も亦涼し

滝落ちて天地白紙にかへりたる

土色の蝶低く舞ふ旱かな

片蔭をいろくづめきて擦れ違ふ

そのむかし駄菓子屋ありし片かげり

大路より小路たのもし片かげり

隣る世へ入る道あらむ道をしへ

しまひたる噴水を統ぶ星夜かな

螢臭き女の統ぶる邪馬台かな

たかむなの早やも長髄彦(ながすねひこ)の丈

叡山をせつに畏み紫蘇を摘む

石鹸のくたびれてゐる大西日

草いきれとふ抵抗を感じけり

夜の蟻を爪はじきして孤りなる

人間の脳重すぎる黴雨かな

孑孑のまことしやかな浮沈かな

灯ともして却つて淋し梅雨まひる

片蔭や町家の奥のなほ暗く

蛾も連るゝ東京メトロ終電車

夏旺んなりけり恋も死もここだ

別の世を垣間見てきし昼寝覚

緑蔭やたれかれの言しつとりと

緑蔭に二人言の葉ひそめゐる

わづらはしきものに五月蠅と色欲と

煩悩の始めと終り蠅の飛ぶ

みちのくの地震(ない)たゞならず梅雨の星

大なゐをただ拱(こまぬ)ける冷房裡

草笛の気負へば鳴らずさりながら

くちなはは毫もよごれず地を這ひて

猫のもてあそぶ灯蛾の断末魔

青芒邪馬台はさほど昔ならず

日盛や眼科に暗き検査室

瞑(めつむ)れば梅雨降る音(と)のみ鑑真忌

赤腹の浮かみ沈みや午後ながし

ゐもり浮きゐて魂の弛(たゆ)む午後

渾身の待つ形なる守宮かな

滴りの金輪際にとゞく音

蜜豆食べて親子ほど年ちがふ

床涼しさすがは竪(たつ)に流れ川

梅雨晴のとまれ動物園に入る

走りもの買ひに錦へ梅雨晴間

水打つて錦に旬のものにほふ

簾美(は)し祇園新橋巽橋

青天に若竹どちの切結ぶ

青梅雨やきれいに魚食うぶべし

葛切や新京極にほつこりと

冷し中華ネオンまだ点く木屋町に

浴衣着て来る約束や河原町

憎からぬ薔薇いきれにぞ酔ひにける

錦やないきなり穴子焼く匂ひ

川風や甘味処の麻のれん

白川の風をもらひて夏のれん

天龍寺さま門前に氷菓舐む

片蔭の産寧坂につまづけり

タバコ包む薄き銀紙若葉冷

雲の峰五尺余りの身で対ふ

梅雨晴の麒麟の前に待ち合はす

金閣の金を見過ぎし霍乱か

法然院この下闇が好きで来る

京菓子の老舗透きゐる夏暖簾

冷房の効きゐて壁に原爆図

山蟻の疲れを知らぬ木の根道

五右衛門の三門借りし夕立かな

蚊が一つ飛んでをるなり蚊帳の中

風死して遺る手回し蓄音機

風死してビクターの犬首傾ぐ

茶屋扇子亡父の道楽いまさらに

太宰忌の蝙蝠傘を張替ふる

サーファーの窓際占むるグリルかな

箱庭の永久の釣人うらやまし

水機関けふも物理に従へる

追ふものは追はるゝものや走馬燈

烏蝶忽と失せける魔王殿

蟻はしる背比べ石の低きこと

大鯰たれかに似たる顔にして

父の世の少年倶楽部曝すかな

冷蔵庫仔牛の脳(なずき)しまひゐる

豚の足牛の心臓冷蔵庫

甚兵衛がいちごプリンを所望せる

寂光院門前颯と紫蘇かをる

いかにして来にけむ蟻や五十階

なにごとか蠅にもの云ふピエロかな

梅雨深し猫に聞かるゝひとり言

梅雨晴のイノダコーヒのテラス席

卵かけご飯に足らふ朝涼や

西日さす目玉つぶれし目玉焼

炎天すがし一点の穢もゆるさず

炎天が仁王立ちしてをりにけり

炎天の裏側に骨(こつ)納めけり

食ひ物屋ばかりのビルの作り滝

定位置に守宮出てゐて恙なき

扇風機飯屋の壁に夢二の絵

豆腐屋の前ひんやりと嵯峨は夏

灯涼し祇園の小路夜も濡れて

業平の終の栖の苔の花

白靴汚る日帰りの東京に

御来迎一期一会のひとなりき

くちなはに神見えてゐる社かな

生きて死にて金魚の眼見ひらける

黙(もだ)深く蜘蛛の巣作り見てゐたる

たゞ灼けて芹沢鴨の小さき墓

ハンモックわれ在るゆゑにわれ思ふ

端居して近寄りがたき背なとなり

耳塚や生き身の耳を蚊に喰はる

自動ドアつぎつぎ開きて花氷

蝮酒六根すべて火めきける

鮎の宿六根かぐはしく眠る

かにかくに蟻も大きや知恩院

片蔭や眠れる猫の耳うごく

ほととぎす啼きては其処をまほらとす

山水に切れとふものや時鳥

漁火の不意にかなしく冷し酒


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