俳句 田畑益弘俳句の宇宙

五月の俳句新作
田畑益弘 俳句新作


新着情報5月

佐保姫の髪の香のして風立ちぬ

通りやんせ鳴る交差点春の暮

毘沙門の使者にて候と百足出づ

背泳の背中を触る海の神

青海より青空深し背泳す

と見かう見蟻のさ迷ふたなごころ

億兆の蟻のひとつを潰しけり

屍に群るゝ蟻夥ししづかなり

世を厭ひ世を恋ひ憲法記念の日

人体に九つの穴朧なり

柳絮舞ふ見わたすかぎり人民なり

人民に柳絮の天となりにけり

冷し酒この淋しさを肴とす

蛙聴く灯ともし頃のしづごころ

修司の忌まなかひの蝶ふつと消ゆ

麦秋やはろかに銀河衝突す

太陽の黒点殖えて麦の秋

恍惚と蛇の眼のある樹上かな

蛇の衣肉(しし)あらぬこと恍惚たり

蛇の衣快楽(けらく)の如く吹かれをり

あざあざと己の手足明易し

鴨川をどり丈高き妓もふえにけり

新緑や塩の馴染める握り飯

ひとりむし思索の域に入り来たる

蝮捕る少年蝮より迅し

わたくしにやをら戻りぬ昼寝覚

昼顔のひらくころ目を覚ますひと

心狂(ふ)る真青き薔薇を見るうちに

また生えてゐる夏草にはかなはざる

ゆく春の横浜沖を見て飽かず

春昼のげに容よきオムライス

曇りのち良く晴れたれど春愁ひ

打水の切先伸びてちやわん坂

打水のみるみる天に帰するかな

滝落ちてまた滝落つる放下かな

整然とはた雑然と蟻の道

つれづれを哀しうしたり遠蛙

瞑れば頭の内に来て囀れる

恋々と祇園を慕ふ柳かな

初夏のほのぼの香る酢飯かな

川床涼み仄かに酔ふがよろしけれ

四条の灯三条の灯や川床涼し

この蝌蚪に四肢生え出づること怖し

ことごとく茄子に茄子生るおそろしき

柿若葉なほも耀りゐる夕餉かな

冥加とも思ふ傷痕更衣

柩窓ひらきて終の昼寝とや

サングラス掛けてしがらみ抜けてゆく

早苗月夕青空の餉となりぬ

見るからに金剛力士暑いぞよ

孤りかないづこにゐても端居めき

冷汗てふ身のからくりの不思議かな

夏の星駱駝に乗りて見てみたし

春の雷魑魅魍魎も目を覚ます

冷奴悪口雑言聞いてをり

やをらてふ言葉蝸牛のためにあり

蝸牛にも為すことあらん前進す

無為の目に蝸牛意外の速さかな

かたつむり有為転変のしんがりに

蝸牛にもおいてけぼりにされしかも

しかじかと云ひつ云はれつ冷奴

髭を剃り髪を刈り上げ花は葉に

降り出して雨水噴水まぎらはし

風に乗る鳥の技見ゆ更衣

我がひたに仕ふる月下美人かな

つながつて風行き渡る穂麦かな

さなきだに山辺は淋し青葉木菟

氷菓舐むはろかに思想置いてきて

おほかたは遠を見てゐる夕端居

カサブランカ買はむ人の香消すために

お花畑天に近づき人やさし

西日さし便所の造花いろめきぬ

葉桜や我にとり憑くそぞろ神

琉金の死の女王の死の如し

琉金の尾が琉金の顔撫づる

向きむきに金魚二匹の二

かりそめの水に金魚の現世かな

掬ひては逃がす金魚やわがすさび

生は夢死はうつつなる金魚かな

葵祭機嫌ななめに牛来たる

蟷螂の生(あ)れて散りゆく淘汰の世

おはぐろの水に遅れて翔びゐたり

蜻蛉生れしばし無数の空あふぐ

一人静はゞかるやうに風吹きぬ

牡丹を言葉乏しく讃めゐたり

沙羅散華見んとて参る妙心寺

抗へるものは皆薙ぐ夏野かな

すきとほる滝壺何の白骨か

滝壺の透きては何かいざなへる

泣き顔の弥勒を恋ひて春の果

消息の絶えにしままや花は葉に

螢火や瀬の音かはる貴船川

蟇啼きては揺する夜のとばり

醜(しこ)なれど憎からぬ蝦蟇けふも出よ

水かへて更につれなき金魚かな

毛虫焼くたまたま人に生まれ来て

毛虫焼くなど孤独な男にて足らふ

デスマスク目を開きさうな白夜かな

溽暑なる此処も開かずの踏切か

冷房裡恐竜化石影淡し

涼しくも素手にて帰り来るかな

涼しさの家霊の宿る柱かな

微動だにせぬも守宮の自在なる

香水を変へたる汝をいぶかしむ

とゞこほりつつ蝸虫の流転かな

日がさして夕立の尻尾きらきらす

白雨の端でうつとりと白雨見る

滴りの音の凛々しき巌かな

滴らむと水の膨るゝ力かな

皐月波響かふを身に蓄ふる

赤く白く波のまにまに蟹の死は

兜虫ちから有り余つて光る

強きもの死臭も強く兜虫

山女釣生絹(すずし)のやうな雨に濡る

ちりぢりの子蜘蛛のその後知らざりし

涼風や句会といへど小人数

蕎麦啜る音も掻き消す白雨かな

海鳴りに耳も慣れたる夏座敷

水平線傾けて干すビールかな

焼酎や酔うたふりして老したたか

母在りし日のそこに置く梅酒瓶

やどかりの宿をさがして九十九里

魔のをりて眼下夏海誘(いざな)へる

鱧食うてこれから江戸へ去ぬところ

幽霊のやうな伯母さま夏館

喪疲れのぬけぬ卯の花腐しかな

枇杷の種くろがねなれば闇に投ぐ

滴りに神の岩座(いわくら)さへ凹む

あな怖し御苑の空のはたた神

迅雷に京の家並たをやかなり

小綺麗な店並びゐる新樹かな

八方を睨む龍ゐる五月闇

病葉の水の都の水に落つ

御来光待ちて呑む水あまかりし

白扇を開けば近む山河かな

白扇を開ききつたる天地かな

白扇をたゝみ天地をたゝみたる

絵扇の去にし世の京ひらくかな

この川のあなたに京や山椒魚

あぎとひて雨をよろこぶ金魚かな

日表ゆ日裏よろこぶ金魚かな

蜥蜴の尾大日輪をあなどれる

花氷華燭の典の間も痩する

ひやひやと月さしてゐる竹夫人

大原や紫蘇にほひ立つ通り雨

木屋町にどぜう鍋喰ふ男女かな

愕然とまなぶた重き冷し酒

真向うに如意ヶ岳置く夏座敷

葉桜やすゞろに過る人の影

母思ほゆカレーライスに辣韮に

若き母思ひ出づるや茄子の紺

嵯峨なれば筍飯を所望かな

清滝や昔のままの鮎の宿

和を以つて尊ぶ蟻の国ならむ

鯖鮓やこたびも錦市場にて

水打つて暮色とゝのふ先斗町

鴨川の風に吹かれて夕薄暑

清水へ坂道ばかり薄暑なる

灯涼し夜の巷の後ろ影

巷ゆくわが碧揚羽汚るるな

ぶんぶんになりてかの日へ帰りなん

とほき日の草笛やつと吹けしこと

蝶生れて既にこの世のものならず

昼花火一つきり何はじまらむ

今はすぐ今でなくなり蚊遣香


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