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田畑益弘 俳句新作


十月の俳句新作10月

一粒づつ葡萄のまろき地球かな

おのづから糸瓜の曲る風流(ふりう)かな

つれづれに未来をおもふ穂絮かな

鳥は翔び人は歩みて菊日和

髪切れば心も変る鵙日和

長き小説読み了へてより火恋し

きりぎりすと我とのみをり風の中

秋草に来てしづもれる拳かな

大花野行きゆく心やゝ狂れて

茶を喫し釣瓶落しの宇治にあり

釣瓶落し止まり木にまだ一人かな

秋扇となり形見ともなりにけり

苞(つと)にしてもの云ひたげな鮭の口

銀漢や井戸水旨き北丹波

鵙の贄恍惚と口開けてをり

花すすき風やはらかく集めをり

灯火親しめり一人と猫二匹

灯火親しむ雨音もさはりなく

明朝体美し灯火親しめり

ふり向けば誰もをらざり秋の暮

呼ぶこゑを聞く空耳も秋の暮

誰れかれの背(そびら)がとほし秋の暮

気づかれぬ裡に消えなむ秋の虹

長き夜の長きトンネル海を貫く

薄目して猫の窺ふ夜長かな

秋の夜やひとりの酒の琥珀色

冷やかに我を無みする鏡かな

鏡冷ゆ五十路の面うつすとき

凭れゐて生家の壁の冷え親し

さはやかやこの身一穢と思ふほど

さはやかに何もせぬ手が二つかな

三千院水一杓に秋深む

冷まじや月に浮かめる女面

秋澄みて羚羊の眼を背に感ず

釣瓶落し宇治の早瀬に見をはんぬ

忘れたるひとの名一つ秋の蝶

松花堂弁当に秋闌けにけり

鉛筆で描く街角や黄落季

誰も来ぬベンチをさがす黄落季

黄落や耳を殺ぎたる画家おもふ

長き夜はコントラバスの音すなり

セロ弾きがセロ抱きて寝ぬ星月夜

爬虫類つぶさに視たる秋日かな

本棚の隅に秋思をしまひおく

たなごころ良くよく見たる秋思かな

化野に蝶見てよりの秋思かな

もみづるや奥嵯峨の雨しめやかに

つれづれの手のひら白き秋思かな

防人の歌にはじまる秋思かな

この秋思よみひとしらず読みてより

金閣ときそひて色を変へぬ松

石庭の石白まさる秋の風

命懸けて蝗はおゆび汚しけり

天の川抜けたる一歯屋根に捨つ

紅葉且つ散りてお薄を所望かな

且つ散りて今し全き紅葉かな

或る一樹鬼にならんともみづれる

己が紅さに愕けるもみぢかな

秋の昼町を思へば町の音

天高し窓拭くをとこ蜘蛛のごと

現し世をふつと抜けたる穂絮かな

冷やかに一語はこゝろ殺めけり

蟷螂に侮られをる案山子かな

祇王寺の庭より昏るゝ竹の春

祇王寺の掃かでおかるゝ紅葉かな

紅葉して嵯峨は祇王寺より昏るる

美しき嵯峨野の雨や新豆腐

清涼寺詣でしついで新豆腐

銀木犀府立図書館閲覧室

をんなよりをやま美し秋燈

とろろ飯思ひ出すことあまたなる

空澄むや死するも良しと思ふほど

生家にて秋の昼寝によき柱

秋の暮池を曳き込む鯉の口

真つ向に鬼やんま来てたぢろげる

家(や)を貫きてゆく鬼やんまに憧れし

吹き晴れて無性に秋刀魚食ひたき日

葛あらし狂はば楽な一生なる

かにかくに白川へ散る柳かな

恐竜の痕跡化石秋日影

マンハッタン冷まじき灯の蝟集なる

三叉路を左右(さう)に離(か)れゆく霧ととも

蜉蝣の死よりこの世の昏れ始む

夕顔の実の引き寄する暗き月

草の海草の波あり秋の蝶

生くるにも死するにも良き秋の天

秋晴の真つ只中の葬に遇ふ

蚯蚓鳴き静かに火星接近す

螻蛄のこゑ身より心の疲れゐて

蚯蚓鳴き正体もなく酔ふ真夜よ

蚯蚓鳴くこゝは六道珍皇寺

冷やかにきのふを見られゐたりけり

あをあをと蟷螂飢ゑて静かなり

亡き数に入るといふこと鳥渡る

ひえびえと生家の柱真直ぐなる

ばつた跳び亜細亜大陸蒼茫たり

芋の露笑ひ転ぐる天地かな

夜の霧の別れ遅らす国際線

読みさしに戯曲を閉づる虫音かな

猿酒を猿と酌みけり佳き夢よ

あさつてがきつと食べごろラフランス

風立てば風に身構ふ蟷螂かな

蟷螂の青き怒りのゆゑ知らず

うかうかと昏れかゝるなり茸山

水面より昏るゝ近江に秋逝きぬ


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